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2024.03.04

鴻池伝統の一体感。2024年問題を超える絆

鴻池忠彦|鴻池運輸 代表取締役会長兼社長執行役員

コロナ禍がひと段落した23年下期。人の移動が活発になり、全国の空港ににぎわいが戻ったが、鴻池運輸を率いる鴻池忠彦は複雑な思いでそれを受け止めていた。

鴻池運輸はその社名から運送会社だと思われがちだが、物流の売り上げは約4割。売り上げの多くは、工場や空港関連の請負事業だ。コロナ前は空港関連で約4300人の社員が地上業務に就いていた。しかし、減便が続いたために社員をほかの職場などに配置転換。復便した現在は約3600人が空港に戻って働いており、逆に人手が足りないほど忙しくなった。「ほかの職場に一時的に移ってもらうときに転勤や業務のミスマッチで辞めていった人もいた。残ってくれた社員も、今現場でかなりの負荷がかかっている。申し訳ない気持ちと同時に、感謝の気持ちでいっぱいです」

実は今後も請負事業では大規模な配置転換が予想されている。鴻池運輸は製鉄所での作業も請け負っているが、そのひとつである鹿嶋市の高炉が25年3月末までに休止予定。そうなると、社員たちは、ほかの請負業務や職場転換などの必要が出てくるだろう。

鴻池運輸は製鉄や空港の他にも、食品工場や医療関係など多岐にわたって請負事業を展開している。ある領域が一時的に縮小しても、他の領域で雇用を吸収できるポートフォリオの広さが同社の強みである。ただ、社員は血の通った人間である。会社の駒であるかのように動かしてもうまく機能しない。鴻池運輸が離職者を出しながらも事業環境の急激な変化を乗り切ってきたのは、鴻池曰く、「人との絆を大切にしてきた」からだろう。

「請負業界の社員はお客様先の工場に毎日出社して、制服も似ている。人から勤務先を尋ねられたら、お客様の社名を答える人もいる。しかし、うちの社員は請負先に馴染みながらも、鴻池運輸の一員であることを意識している人が多い。社員との絆は強いと自負しています」

社員のロイヤルティを高めるために、どのような仕掛けをしているのか。そのように問うと、鴻池は「特別なことは何もしてない。ファミリー的な一体感があるのは風土のようなものですかねえ」と首を傾げた。
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文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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