ロシア軍はすでに占領していたドネツク市のすぐ北西にあるアウジーウカを落とすために、数万人にのぼる死者や負傷者を出し、数百両の車両を失った。こうした大きな犠牲を払いながらも、弾薬の枯渇した守備隊をついに撤退に追い込み、ウクライナの30平方km超の国土を奪った。ロシア軍にとってここ数カ月で最大の戦果になった。
その一方で、ある方面ではウクライナ軍が、ほんの少しずつではあるものの前進を続けている。
半年前、ウクライナ海兵隊の部隊は南部ヘルソン州で広大なドニプロ川をボートで渡り、左岸(東岸)のクリンキ村に橋頭堡を築いた。第35独立海兵旅団を中心とする部隊は現在、クリンキ周辺以外はロシア側の支配下にある左岸でなおこの村を保持しているばかりか、西に1.5kmほど離れたコザチラヘリ村へ向けて徐々に進軍している。
戦闘は通りや建物単位で繰り広げられている。ある区画をどちら側が支配できるかは、その上空に飛ばせるドローン(無人機)の数で決まることが多い。ウクライナ側がクリンキ一帯で、ロシア側のドローン操縦士を殺害した直後にとくに大きな前進を遂げているのは、理由のないことではない。
クリンキ方面作戦でのドローンの重要性はいくら強調してもしすぎることはない。X(旧ツイッター)で「Kriegsforscher」と名乗るウクライナ海兵隊のドローン操縦士は2月5日「私たちの中隊の爆撃ドローンは夜間に爆撃しているだけでなく【略】、弾薬、食糧・水、医療物資などの補給も担っている。むしろこちらが主な任務だ」と説明している。
作戦の実施では電子戦が重要な役割を果たしている。ウクライナ軍の電子戦部隊は昨年秋、海兵隊が渡河を始めるのに先立って強力なジャマー(電波妨害装置)でクリンキの戦場の下準備をした。ロシア側のすべてのドローンとまではいかないまでも、海兵たちが渡河して橋頭堡を築くのに十分な数のドローンを飛べなくした。
クリンキ一帯ではロシア側のジャマーはほとんど機能しておらず、ウクライナ側のドローン部隊のほうがより自由に動ける状態になっている。
ウクライナ側の監視ドローンは24時間体制で稼働し、クリンキの南方に配置されているロシア軍部隊(1個自動車化師団、1個空挺師団、2個海軍歩兵旅団、1個機械化旅団)が橋頭堡に対する攻撃のために部隊や車両を集結させるのを見張っている。
夜間には「バーバ・ヤハ」と呼ばれる比較的大型のドローンがロシア軍の集結地点を爆撃したり、道路に地雷を撒いたりしている。昼間はFPV(1人称視点)ドローンがクリンキに向かってくるロシア軍部隊に襲いかかる。