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2024.03.11

第4回 どんな本を読んでも経営者として持つべき「マーケットを見る眼」が定まらない


 最初に申しあげておきたいのは、私たちの会社では、市場や株価がこの先どうなるという「予測」の話はほとんどしません。そういう未来予測にまったく意味がないとは言いませんが、私は未来を予測するよりも、自分たちで未来にコミットすることの方に興味があるからです。

「うねり」と「流れ」

私は創業時から「スパークスは時代の『うねり』『流れ』を作っていく会社になる」ということを社員に言ってきました。

 「流れ」は、英語にすれば〝Trend〟つまり時代の波のようなイメージです。では「うねり」とは何か。小さな波(「流れ」)が何かのエネルギーに導かれて、ひとつの場所に集まり、お互いにぶつかりあって、波がだんだん大きくなっていくーーその波がぶつかり合う際に生じるエネルギーの渦巻きのようなものが「うねり」であり、投資においては、この「うねり」と「流れ」を作り出すことが重要だと私は考えています。

 こうした私の考え方に強い影響を与えたのが、ジョージ・ソロスさんの「再帰理論」でした。

ジョージ・ソロスの「再帰理論」とは何か?

1985年から1988年までの3年間、私がソロスさんのもとで投資アドバイザーとして雇われていたことは既に述べましたが、ソロスさんの「再帰理論」を一言でいえば、「資本市場における価格形成のメカニズムを説明する理論」ということになります。

 古典的な経済学において価格というものは、①市場は効率的である、②その効率的な市場において価格は需給の均衡点によって決まる、という前提を置いています。

 これに対してソロスさんは、①市場は非効率である、②その非効率な市場において価格は市場参加者が形成する認識と実態が相互に影響しあって形成されるムービングターゲット(動く標的)である、と定義しています。

 確かに現実の市場における価格形成は、市場参加者のその時々の心理を反映した情緒的、感情的な側面があることを、投資をやっている人はよく知っているはずです。

「バイアス」と「バブル」

では市場における価格は具体的にどう決まっていくのか。それを説明するうえで、ソロスさんはよく「バイアス(思考や判断を偏らせる思い込み)」という言葉を使いました。

 例えば、A社がある新商品を開発したときに、それを見た投資家が「この新商品でA社は成長するに違いない。株価は上がるだろう」と考えたとすると、それが「バイアス」ということになります。

 そのバイアスがかかった認識によって、株を買うという行動が起こり、そこに価格が形成されます。その新たに形成された価格を見て、さらに次のバイアスが形成される。

 つまり「価格が上がるだろう」と考えていた投資家たちは、実際に価格が上がったのを見て「やっぱりだ。もっと上がるぞ」と確信するようになります。いわばバイアスが強化されるわけで、ソロスさんはこれを「自己強化的」と表現しました。

 この「自己強化的なプロセス」が継続していく過程こそ、「バブル」に他なりません。

 しかしバブルは永遠には続きません。もともと10万円だったものが1億円になれば、それは何かがおかしいわけです。誰かがそれに気付いた瞬間、逆のバイアスがかかって価格は下がっていく。それがバブルの崩壊、ということになります。

日本のバブル崩壊で大儲けしたソロス

バイアスによって価格が形成され、その新たに形成された価格に対して、さらに新たなバイアスがかかり自己強化的に価格が形成されていくーーこれが「再帰理論」の根幹です。

 ソロスさんがこの「再帰理論」によって大儲けしたのが、まさに日本のバブル崩壊でした。

 あの当時、日本の地価の上昇に合わせて日本の銀行株は軒並み上がりました。このとき投資家たちは、次のようなバイアスを抱いていたはずです。

〈日本の銀行は土地を担保にお金を貸しており、土地が値上がりすれば、担保価値が上がるのでもっと貸せるようになって、もっと利益が上がる。だから土地の値段が上がれば、日本の銀行株はもっと上がるはずだ〉。

 すなわち〈株価は上がる〉という自己強化的なプロセスに入っていたわけです。そのバイアスを利用してソロスさんは日本株を買いまくります。

 ソロスさんが凄かったのは、単にバイアスに乗っかっただけではなくて、土地の値段を高く保つことは日本政府の「国策」であるから、このプロセスは当分続くという確証を得ていた点です(その確証を得るために、ソロスさんは私を日本に派遣し、何度もレポートを出させたのです。第1回参照)。

 一方でいくら国策とはいえ、「再帰理論」により地価上昇はいずれ限界を迎え、反転することもソロスさんはよく知っていました。だから逆のバイアスの兆候が見えた瞬間に日本株を空売りし、価格下落の局面でも大儲けしました。

「市場を見る目」を養う方法

もっとも、私は皆さんにソロスさんの真似をしろ、と言いたいわけではありません。言うまでもないことですが、ソロスさんの「再帰理論」による投資はハイリスクハイリターンであり、誰もができるものではないからです。

 一般の投資家が「再帰理論」に学ぶべきことがあるとすれば、それは市場の「バイアス」に惑わされるな、ということだと思います。

「バイアス」を見抜く目をもつことができれば、市場の片隅で生じているはずの新しい「流れ」(トレンド)に気付くことができます。投資家として最初にその小さな「流れ」を認識し、アクションをとっていくことで、市場において新たな認識が形成され、小さな「流れ」はやがて大きな「うねり」となっていくーーそれこそが私たちが投資家として目指していることでもあります。

 冒頭の質問「どうすれば『市場を見る目』を養えるか」に立ち返るなら、マクロな視点で市場を眺めていても、ほとんど何もわかりません。常に意識するべきはミクロ、つまり個別企業の最前線である〝現場〟の動きです。そこには必ずマクロを読み解くヒントがある。

 今後、大きなうねりとなるかもしれない小さな流れがあるはずです。その流れは、いくらたくさん本を読んでも見えません。とにかくミクロな現場を自分の目で見て回るしかない。

 私の投資哲学でもある「マクロはミクロの集積である」とは、そういう意味なのです。

promoted by スパークス/text by Hidenori Ito/ illustration by Jun Takahashi

連載

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