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2024.03.11

第2回 「ものづくり」から「顧客づくり」へのマインドシフトができないのはなぜ?

この質問にはちょっと誤解があるような気がします。というのも、「ものづくり」と「顧客づくり」は本来切り離せないもので、「さあ、ものが出来たから、今度は顧客を探そう」という話ではありません。そもそも顧客が求めているものがわからなければ、「ものづくり」はできないはずだからです。

 それを踏まえた上で今回は私がどうやって顧客を得て来たかという経験をお話ししたいと思います。

顧客ゼロからの「リスタート」


 私がジョージ・ソロスさんのもとで日本株を運用する投資マネージャーとして働いてきたことは前回述べましたが、3年ほどで〝お暇〟を出されて、6年ぶりに日本に戻って来たのは1988年のことでした。

 翌年「スパークス投資顧問」(スパークス・グループ株式会社の前身)を数人で立ち上げたものの、顧客は実質ゼロというリスタート。とにかくまずは顧客、つまり投資家を探さないといけないわけですが、日本の銀行の人たちは30そこそこで会社を立ち上げたばかりの人間の話は聞いてくれません(これは今もそうです)。

 そこで私が目をつけたのがヨーロッパ、とくにUBSやクレディスイスといった世界に名だたるユニバーサルバンクがあるスイスでした。特にコネクションがあったわけではないのですが、ジュネーブに何度か通って紹介によって人脈を広げていき、そのうちジュネーブの金融関係者で私のことを知らない人はいなくなりました。

なぜ彼らは私の話を聞いてくれたのか?


 ジュネーブでは銀行のトップの人間が時間を割いて、私の話に耳を傾けてくれました。

 なぜかというと、ドル至上主義のアメリカと違って、ヨーロッパの投資家には通貨分散の考え方が浸透していて、彼らは必ず円通貨を持っているからです。通貨を分散して持つのは植民地時代の知恵なんだと思いますが、とにかくキャッシュか株か債権という形で円を持っている。だから日本株の運用のスペシャリストとしての私の話に興味を持ってくれたわけです。

 もうひとつ私が顧客を開拓した地域があります。それはオイルマネーで潤っていた中東です。彼らもまた日本株をたくさん所有していましたが、自分たちで日本の会社を調べる能力まではありませんので、誰でも知っているような大会社の株(大型株)を上から順番に買うような持ち方でした。

 そこで私がヨーロッパや中東の投資家に説明したのは、日本には小さくてもきらりと光るものを持つ会社がたくさんあって、大型株だけではなく、そういう小型株を買わないといけないよ、ということでした。そして、小さくてもきらりと光る会社がどこなのか、それを現場で調べるのが私たちの仕事です、というプレゼンをしたわけです。当時、ヨーロッパや中東で日本の株をそういう目線で調査しているところはなかったので、彼らは私の話に興味を持ってくれました。

マクロはミクロの集積である


 すると最初に中東のとある産油国の財務省が投資してくれたのを皮切りに、新たな顧客が次々と名乗りを上げてくれました。彼らが見ず知らずの私の話を「面白い」と思ってくれたのには、理由があります。
これは今も同じですが、当時から私たちは投資先の会社を何度も訪ねて、経営者に会い、自分が現場で見聞きした情報や感覚を大切にしています。ヨーロッパや中東の投資家たちは、そうやって私が自分の足で得た活きた情報とそれに基づく分析を「面白い」と思ってくれたのでしょう。

 投資の世界において未来を見通すことはもちろん大事なのですが、先ほども述べた通り未来を完全に予測することはできません。しかし現在、何が起きているのかは、現場に行けばわかります。

 私は創業時から「マクロはミクロの積み重ねである」ということを言い続けていますが、マクロを「未来」に、ミクロを「現在」という言葉に置き換えれば、その意味がよくわかると思います。現在を正しく把握することでしか未来は見通せないのです。

トヨタの「現地現物主義」


 これは世界に冠たるトヨタ自働車がプリンシパルとして掲げる「現地現物主義」――現場で自分で見て聞いて確かめてからやりなさい――にも通じるものがあると思います。

 私はトヨタの豊田章男前社長とは40年以上のつきあいがありますが、彼は副社長時代にニュルブルクリンク24時間レースにドライバーとして参加していました。あるとき章男氏に「プロでも死の危険があるようなレースになぜ自ら参戦するのか」と尋ねたところ、彼は「自分には命をかけて運転する姿を(社員に)見せることしかできないんですよ」と答えました。顧客にいい車を届けるために、自らが命をかけて現場でハンドルを握る――社長自らが究極の「現地現物主義」を実践していたのがトヨタの強さの秘密でもあります。

 自分の足で現場を見て回ることによって、顧客が求めているニーズ、それも顧客自身が気付いていないニーズに気付くことができるのです。

promoted by スパークス/text by Hidenori Ito/ illustration by Jun Takahashi

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