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2024.03.11

第1回 徹底的に分析も準備もしたのに、資金調達がうまくいかないのはどうして?


 私の周囲にも〝いつまでも調べている人たち〟がいます。もちろん、これから投資をする、起業をするというときに、事前に調べたり準備したりすることは大事です。けれども究極的には、いくら調べたところで先のことはわかりません。ですから〝いつまでも調べている人たち〟に私が言いたいのは、「まず動けよ」ということなのです。

 私にそのことを教えてくれたのは、〝伝説の投資家〟として知られるジョージ・ソロスさんでした。

ソロスさんとの出会い


 私とソロスさんの出会いは、1980年代半ばに遡ります。当時私は野村證券を退職して、ニューヨークで投資顧問会社「ABE CAPITAL RESEARCH」をひとりぼっちで起業したばかりでした。

「日本にもいずれアメリカで見た投資顧問会社全盛の時代が必ず来るはず」という思いで起業したものの、当時31歳の若造がマンハッタンで生きていく厳しさも身に染みていました。

 とにかく有力な投資家に、ファンドマネージャーとしての自分を売り込むしかない。そこで私はそれまで温めていた投資のアイデアを〝Takeover Opportunities in Japan(日本における好機を見逃すな)〟と題した10ページほどのレポートにまとめて、手紙を添えてウォール街で名の知れた投資家や投資会社に片っ端から送りました。

 そのレポートは、当時の日本の鉄道会社、とくに私鉄が沿線に膨大な不動産を所有していて、その含み益と比較すると株価はだいぶ割安であることを指摘したものでした。日本株を損益計算書ではなくバランスシート、つまり資産価値で評価するというアイデアは当時それほど一般的ではありませんでした。 

ボサボサ頭にほつれたセーター


 このレポートを一斉に送付してから1週間後、ソロスさんの秘書から「ミスター・ソロスがあなたに会いたいと言っている」と電話があったのです。電話の翌日、私はマンハッタンのコロンバスサークルの古びたビルにあった彼のオフィスを訪ねました。想像していたよりも質素なオフィスで緊張しながら待っていると、やがてボサボサ頭にセーター姿の男が満面の笑みで現れました。

〝Hi. I’m George Soros. You are Mr.Abe, yes?〟

 ハンガリーなまりの強い英語と、セーターの袖口がほつれていたのが印象的でした。続けて彼は「シュー、あなたのレポートを読んだよ。私もちょうど日本の含み資産株への投資を始めようと思っていたんだ。改めて君のアイデアを聞かせてくれ」と言ってくれました。

 それから2時間あまり、私は改めてソロスさんに向かって、自分のアイデアを全身全霊こめて話し続けました。その間、ソロスさんはじっと話を聞いていましたが、私が話し終えると、すっと立ち上がって自分のデスクに向かって歩きながら、「通貨が強くなるとその国の資産価値は上昇するんだよ。君の話には〝spark〟(煌めき)を感じた」と言いました。

 そして最後にこともなげにこうつけ加えたのです。

「シュー、明日から1億ドル運用してくれないか?」

 まだ何の実績もない、今日会ったばかりの日本の若造に即決で1億ドルを投資しようというのです。その帰路で私は、「金持ちになるかもしれない」という興奮で地に足がつかず、食事に行こうと車で出掛けても、ふと気付くと反対車線を走っている、という有様でした。

ソロスさんの「ダメ出し」


 その翌日、早速、私は日本の鉄道株を200億円ほど買いました。当時のソロスさんにとっても大きい額なので毎日ミーティングがあるわけですが、あるとき「お前のレポートに書いてあることが本当か、明日から日本に行って調べてこい」と言われました。要は鉄道各社が保有している不動産に本当に期待通りの含み益を見込めるのか、と。

 もう既に株は買っているわけですが、すぐに日本に飛んで不動産鑑定士を捕まえて、分厚いレポートを作りました。日本から戻ってソロスさんに見せたら「これじゃダメだ。もう一回、調べてこい」。また日本へトンボ帰りです。よほど顔色が悪かったのか、機中でキャビンアテンダントに「ご病気ですか」と心配されたものです。

 とにかくまた同じような分厚いレポートを出しても仕方ないので、今回は日本で色んな人に会って、私なりに得た感触を国際電話でこう伝えました。

「プラザ合意で超円高時代を迎えた日本にとって、土地の値段を高く保つことは、〝National Interest〟(国益)に沿ったことなのです」

 するとソロスさんは、〝I accept it.(わかった)〟と納得してくれました。

〝Invest then Investigate(まず投資せよ。調査はそれから)〟


 それから3年あまり、私はソロスさんのもとでサテライト・マネージャーとして働くことになるのですが、この最初の経験で、ソロスさんの口癖でもある投資哲学〝Invest then Investigate(まず投資せよ。調査はそれから)〟を強烈に叩き込まれたわけです。

 つまり投資において頭や脳の表層でいくら考えても物事の本質は分からないし、将来のことは完全には予測できない。どんな分厚いレポートを上げても分析には限界があり、最後の決断というものは自らの「感性」を信じて下さなければならない。ソロスさんが日本出張で私に求めていたのは、数字(分析)ではなく、私の「感性」のようなものだったと思います。

 「感性」とは、あてずっぽうの勘のことではありません。それは物事に真剣に取組み、やり続けるときに身体全体で感じる知恵のようなものだと思います。

 いくら詳細に分析をしても、この感性の煌めきがなければ、投資で大きなリターンは得られないし、人を動かすこともできないーーこれがソロスさんの教えであり、私が社名を「スパークス」とした理由でもあります。

promoted by スパークス/text by Hidenori Ito/ illustration by Jun Takahashi

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