斯波:「アートはコンセプチュアルなものなので、具現化するのにテクノロジーが相性良いです。例えば直近の事例ですと、大阪関西国際芸術祭で展示したアーティスト野村康生氏の宇宙アート。野村氏が「作品を無重力に持っていきたい」というので、国際宇宙学会(IAC)での宇宙事業スタートアップSpacetainment PTD LTDとの出会いを通してNASA、SpaceX等人類最高峰の科学技術によって実際に作品を宇宙に持っていきました。
具体的には野村康生氏の作品をNASAケネディスペースセンターより、SpaceX社ファルコン9にのせて打ち上げ、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」実験棟外部の曝露施設へと取り付け、数ヶ月間、放射線や強い紫外線が飛び交う非常に厳しい宇宙環境に晒したのです。その後それが無事地球に帰還することに成功した事により”宇宙を経験した”史上初のアートピースと言えるでしょう。」
斯波:「私は今アートを軸にテクノロジー界隈の方々に繋がっていっているのですが、ぜひテクノロジー界隈の方にもアーティストのユニークな視点を得てもらいと考えております。テクノロジーによって可能になるアート、そして逆にアーティストによってテクノロジーの新しい使い方や意義を見出すきっかけとなればとの思いから、BEAFではハッカソンを行ったりして接点を増やしていき、さらにアート&テクノロジーの融合を促進させていきたいと考えております。」
彼女は活動母体を「非営利団体」にしていることも興味深い。アート&テクノロジーを融合させる際に非営利団体という組織形態を選択する理由はなんなのか?
斯波:「非営利団体こそ資金がどこからきてどのように流れるのかを見せられる追跡可能・透明性のあるブロックチェーンが役に立ちます。つまりテクノロジーの恩恵を受けやすい組織形態といえます。また、AIを活用することにより、効率化と公平性を用いた新たなガバナンスのあり方も考えられます。「ブルックリン実験アート財団」では、ハーバード大学でまさにアートとAIガバナンス研究で博士号を取得したアンドレ・ウール博士(ANDRE UHL)にアドバイザーとして参画してもらい新たなガバナンスのあり方も実験していきます。アンドレは台湾のデジタル担当大臣オードリー・タンさんと参加するIEEEの「拡張知性評議会(Council on Extended Intelligence)」で一緒の委員会を運営したりしたメンバーで、彼の知識と経験によって可能となる全く新しい仕組みでアートを軸にした日・米・アジア文化交流を作っていきたいと考えています。
既存の美術館だと数年先の企画まで全部作って動かなければならないですが、web3的な動きをすると状況によって変化をしていくことが可能であることも魅力ですよね。」