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2024.03.06 09:15

まさに怪気炎。村上隆が仕掛ける「10億円のふるさと納税返礼品」

(本稿は「読むふるさとチョイス」からの転載である。)
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ふるさとチョイスが扱う返礼品プランのなかで、ひときわ目立つものがある。京都府京都市と現代アーティストである村上隆さん率いる有限会社カイカイキキがタッグを組んで実現した返礼品だ。寄付金額は1万円から10億円まで全11プラン用意されている。「誰もやっていないことに意味がある」と話すのは、同社のCOO佐々木翔平さん。10億円の前代未聞な返礼品が誕生した背景、ふるさと納税で叶えたいことについて伺った。

他の人がやらないことに、意味がある

京都市美術館90周年記念展「村上隆 もののけ 京都」開催に伴い誕生したのが、村上隆さんデザインのふるさと納税限定「COLLECTIBLE TRADING CARD」付き入場券。寄付金額に応じて入場券の枚数が異なり、最も高額な10億円のプランには入場券100枚のほか、限定のトレーディングカード、彫刻作品、クリアファイルなどが付いている。特異な返礼品はどのように生まれたのか。

カイカイキキCOO佐々木翔平氏

カイカイキキCOO 佐々木翔平氏


「ふるさと納税を活用するアイデアは、村上が堀江貴文氏(ホリエモン)のふるさと納税に関する動画を見たことがきっかけです。北海道の大樹町では、ロケット開発に力を入れている自治体で、堀江氏の宇宙産業に関する講演会の開催権を800万円で返礼品として出していたんです。そこからふるさと納税というメカニズムに興味を持ち、展覧会の入場券にトレーディングカードをはじめとする限定アイテムをつけようといったアイデアに発展していきました」

気になるのは、寄付額の最高額を10億円に設定している点だ。

「10億円も誰が寄付するのかという問題はあるのですが、ふるさと納税のレギュレーションとして、10億円がダメ、というルールはない。やれるのであればやろうと。現実的ではないかもしれないけれど、他の人がやっていないことに意味があると思っていて。寄付が集まれば京都市にも還元できますし、芸術文化の振興という点においても大きな価値があると思っています」
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カイカイキキの代表である村上隆さんにとって、京都は思い入れのある地だ。2011年の東日本大震災直後に京都に移住し、以来生活の拠点としている。

京都市美術館(通称、京都市京セラ美術館)が90周年の節目にあわせて、国内では8年ぶり、東京以外では初の大規模個展「村上隆 もののけ 京都」の開催に踏みきった。この入場券をふるさと納税の返礼品にすることは、ひいては京都市の地域活性化にもつながる。

地元の高校生や大学生がアートに触れる機会を作りたい

寄付額1億円以上のプランには、先に紹介した返礼品のほかに、京都市内在住(通学)の高校生や大学生を個展に無料招待できる特典が付いている。つまり誰かの寄付によって、地元の高校生や大学生がアートに触れる機会を作ることができるのだ。愛のあるプランが生まれた背景について、佐々木さんに聞いてみた。

「村上のユニークなアート作品は、買える人はどうしても限られてしまう。個展だったら入場料だけで見ていただけるのですが、それでも学生にはまだ高いと感じられるかもしれません。どなたかの寄付の力で、高校生や大学生の入場料を無償化していただき、地元の学生が村上のアートをはじめ芸術に触れる機会を提供してほしいです」

対象を高校生や大学生に絞っているのには、もう1つの狙いがある。

「村上のオーディエンスをどう増やしていくかも考えなくてはいけません。何もしなければオーディエンス層は固定化され、作品を買ってくれる人も今後少なくなってしまうかもしれない。もっと幅広い年代、特に若い世代の認知を獲得することが重要だと考えています。今回の返礼品で対象を高校生や大学生にした理由はそこにあります」

整理はせずに、事業の広がりをサポートしたい

アートに触れてほしいと語る佐々木さん自身は、芸術とどのように向き合ってきたのだろうか。

「僕の母は絵本作家で、父と弟はフォトグラファーです。そんなクリエイティブな家系に生まれたのに、なぜか僕は絵心がまったくなくて(笑)。自分が作品をつくる側になる道は考えていませんでしたが、両親のように自己表現によって世の中になにかしらの影響を与える、ということに強いあこがれはありました」

現代アートには詳しいわけでもなかったと話す佐々木さんが、村上隆さん率いるカイカイキキにどうやって入社したのか。

「カイカイキキに入社する前はアートとは関係ない仕事をしていました。大学時代にはベンチャー企業でインターンをして、経理や経営企画など幅広く任されていて。その後CFOの直下で無茶振りをどんどん受けながら実績を積み、新卒でその会社に入社、子会社の社長やゲーム会社のCFOを経て、インターネットサービス会社を共同創業……など、さまざまな経験をしてきました。そうした活動で出会った人から、カイカイキキを紹介されて、面白そうだと思い入社しました」

畑違いの業界からクリエイティブの世界に飛び込んだ佐々木さん。カイカイキキには、これまでの会社にはない魅力を感じているという。

「カイカイキキは、村上隆という圧倒的な存在があって、強烈なリーダーシップによって駆動している会社です。だからマネジメントの仕組みも普通の会社とは違います。日々新たなプロジェクトが立ち上がって、あらゆるところで問題が起きて、ぐちゃぐちゃというかカオスなんです。でもその熱量にみんなが吸い寄せられて、チームの原動力になっているのが面白くて。COOとしての役割としては、村上やチームの熱量を最大化し、カオスのなかから大きな成果を出せるようにサポートすることだと考えているので、これからもさまざまな新しいチャレンジをしていきたいと思っています」

10億円の返礼品も、こうしたカオスのなかから生まれたアイデアの一つ。あまりにも高額であるがゆえに、無茶苦茶な返礼品かのように思えるが、その背景には、京都への感謝や若者がアートに触れる機会の創出といった目的がある。

今後も独自のアイデアでふるさと納税の取り組みをしていきたいと語る佐々木さん。心が踊る返礼品がこれからも登場することを期待したい。

文=水上歩

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