トランプが大統領だった2017年からの4年間に中国からの輸入品に課した関税がいかにひどいものであったかを考えれば、馬鹿げた考えだ。関税導入の影響をもろに受けたのは最終的に税金を払わなければならなかった米国の家庭や農家で、米中の力関係を変える効果はほとんどなかった。
中国の習近平国家主席は、トランプの1985年から借りてきた戦略を予見していただけでなく、巨大な貿易戦争を回避する方法を示した。トランプ政権は、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)1社の成長さえ止めることができなかった。
だがトランプが選挙で勝利した場合の60%の追加関税を課す計画は、米国経済にブーメランのように帰ってくるかたちで、世界の金融システムにストレステストを行なうことになるだろう。そしてそれは、習率いる共産党が地政学的な影響力を強めようとしている今、中国の思うつぼだ。
2021年1月以来、習がトランプをとても恋しく思っているというのはもっともな話だ。トランプが中国の経済が立ち行かなくなるようにしようとしたのに対し、ジョー・バイデンはテック超大国になるという中国の野望の核心に迫った。
バイデンはまず、トランプが1期目に導入した関税をそのままにして多くの人を驚かせた。これは中国の指導部とバイデンを支える米民主党議員の両方を怒らせた。だがその後、バイデンは守りが薄い部分を極めて高い精度で攻撃した。
バイデン政権はこの3年1カ月間、中国の最先端技術へのアクセスを着実に制限した。狙いは半導体や半導体製造装置の中国への販売をこれまでより難しくすることだ。バイデン政権は、量子コンピューティングと人工知能(AI)における習の野望を阻止するための審査プログラムを展開。また、米国の半導体製造の育成に数千億ドルを投資し、経済力を強化した。
バイデンは、SNSで習政権に向けて陳腐な言葉を発信したりはしなかった。習が11月5日にバイデンが負けることを望むようなやり方で、中国にとって最も痛いところを突いた。
トランプの再選はもちろん、米国にとって悪夢となる。追加関税は、貿易額5750億ドル(約86兆円)の世界で最も重要な経済関係を、事実上崩壊させてしまうだろう。インフレを誘発するのはいうまでもない。