2024年が始まった当初、アジアの投資家の間では、米国債利回りの「より高く、より長く」という時期は過ぎたという見方が大勢だった。だが、実際はそういうわけでもなかった。インフレ率がFRBのコンフォートゾーンである2%をなお大きく上回っているからだ。
FRBのジェローム・パウエル議長のチームが数回の利下げを行う可能性は低くなっているかもしれない。予見できない「ワイルドカード」の1つは、来たる米大統領選挙の結果がFRBの政策決定に与える影響だ。
当然のことながらジョー・バイデン大統領は、FRBが利下げに転じ、それに市場が好意的に反応してプラスの「資産効果」が広がることに期待を寄せていた。一方、共和党側の対決相手になりそうなドナルド・トランプ前大統領は、政権に復帰すれば新たな減税を実施すると予告している。
その恐れだけで債券自警団は身構える可能性がある。トランプは2017年、米景気が好調で刺激策は不要だった時期に、1兆5000億ドル(約225兆円)を超える大型減税措置を成立させた。2019年には、金融引き締め策を続けていたパウエルのFRBに圧力をかけ、利下げに踏み切らせた。これら2度にわたる刺激策の大判振る舞いが、米国で40年ぶりの大幅なインフレを用意したのはほぼ間違いない。
続いて、新型コロナウイルス禍に関連したサプライチェーン(供給網)の混乱が起こり、米国のインフレを助長した。その後、米政府による度重なる財政出動でインフレにさらに拍車がかかった。
しかしアジアはここへきて、FRBによる急ピッチの利下げは既定路線ではないという新たな現実に適応しつつある。そのためストラテジストたちは、アジアの債券利回りや為替レートの展望、世界経済の成長見通しの見直しを急いでいる。
ドイツの保険大手アリアンツの首席経済顧問を務めるモハメド・エラリアンは米CNBCの番組で、FRBの金利に関する目算が狂いつつある可能性が出てきたことについて、米経済のソフトランディング(軟着陸)という話に踊らされてきた投資家に「警鐘」を鳴らすものだと語っている。
こうしたもろもろの事情によって、米国債の利回り曲線(イールドカーブ)や、米財務省の借り入れ計画と債券自警団のせめぎ合いは、中国をはじめアジアの国が想定していなかったワイルドカードになっている。この先数カ月に出現するのがブラック・スワンか、それともホワイト・スワンかは議論の余地がある。議論の余地が少ないのは、いずれにせよアジアは2024年に「想定外」を想定しておくべきだということだ。
(forbes.com 原文)