移民問題と安全保障にかかる支出、予想される影響
例として、今後の展開を移民の面から考えてみよう。ロシアによる侵攻が始まって以降、600万人がウクライナから脱出し、800万人が国内で避難していることからするに、プーチンが今勝てば、2000万人超が西側諸国へ逃れることになると、信頼できる試算では示されている。ロシアが勝利した場合にウクライナから欧州に流出する人々は2000万人超にのぼると仮定して、米シンクタンクのランド研究所の試算を用いると、そうした移民を支援する費用は年1兆ユーロ(約162兆円)を超える可能性がある。たとえ流出が300万〜400万人だったとしても、負担はかなりのものになる。これは、世界での米国のリーダーシップの失敗が移民面でもたらす結果にすぎない。
米政治サイトのポリティコは、欧州連合(EU)加盟国の国内総生産(GDP)の安全保障にかかる支出が冷戦時代の水準に戻ると仮定して、安全保障の強化には毎年4100億ユーロ(約66兆円)が追加で必要になると試算した。別の言い方をすれば、米国が巻き込まれることになるロシアとの長期にわたる新たな冷戦には、10年間で4兆ドル(約600兆円)以上のコストがかかると推定される。
共和党のシンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所のクリティカル・スレット・プロジェクトは、『ウクライナを失うことの高い代償』と題した記事の中で「ロシアの冒険主義を抑止し、ロシアの攻撃に打ち勝つ準備をするために、バルト海から黒海までのNATO加盟国の東部の国境全体にかなりの数の米兵を送ることになる」と言及している。「米国はまた、保有するステルス航空機の多くを欧州に常駐させなければならなくなる」とも指摘。そして「核を保有するロシアから脆弱(ぜいじゃく)なNATOの同盟国を守るために米軍を派遣するコストは計り知れない」と結んでいる。