カメレオンは、皮膚に小さな結晶を含む細胞の層があり、その結晶の配列を変えることによって、非常に高速に皮膚の色を変化させることができる。そのため、体の一部がある時は緑色に見え、次の瞬間には黄色く見えるようになる。これは一般的な動物における色の表れ方とはまったく異なる仕組みだ(人間の肌が日焼けするのにどれだけ時間がかかるかを考えてほしい。それが新しい色素を形成するのにかかる時間であり、カメレオンが色を変えるより明らかにずっと遅い)。
カメレオンが色を変化させる仕組みは、鳥や蝶の羽が非常に鮮やかな色に見える仕組みと大きくは変わらない。時間と共に変化することはないものの、鳥や蝶の明るい青や緑も、構造的変化によって形成されており、一般的な色素によるものではない。
「光を吸収する合成顔料や染料と異なり、多くの生物系に見られる構造色は、表面のナノ粒子が可視光と干渉することによって作り出されます。このため、色はより鮮やかで、より持続可能になる可能性があります」と、ベックマン研究所のイン・ディアオ研究室に所属する研究者のサンヒョン・チョンは声明で説明した。
自然から着想を得た構造色は、新しい材料を作るのにも役立つ可能性がある。従来の染料や顔料は、複数の色を作るためには複数の染料が必要だ。しかしディアオやチョンらのチームは、カメレオンと同じ仕組みを使うことで、1種類のインクだけで複数色の3Dプリントを可能にする方法を発見した。
彼らは、ブロック共重合体と呼ばれる化合物を使い、自然界で様々な色のパターンを作り出している構造を模倣する方法について、PNAS(米国科学アカデミー紀要)誌で発表した。しかしこれらの化合物は、3Dプリンティングに使うには形成に時間がかかり複雑すぎる。そこでチームは、この分子を応用し、小さなパイプクリーナーやボトルブラシみたいに、分子の骨格から小さな側鎖がたくさん突起している形状にしたものを使った。この「ボトルブラシ・ブロック共重合体」が、1種類のインクで複数色のプリントを可能にする鍵となった。それは、この化合物の形状と構造(すなわち最終的な製品の色)が、紫外線を当てることによって必要に応じて高速に変えることができるためだ。
「新たな化学的性質とプリントの方法をデザインすることで、私たちは構造色をリアルタイムで調整し、これまで不可能だったカラーグラデーションを作れるようになりました」とディアオは語る。
研究チームは、上に掲載したカメレオンの画像や、ゴッホの「星月夜」の簡単な模写などのカラフルなアートを作成することで自分たちの手法をテストし、黄色、緑色、青色のさまざまな色調を1種類のインクで生成できることを紹介した。
彼らが開発した方法は、現時点では実験室内でしか見ることができないが、将来的には、新しいタイプのセンサーの製作や、生物医学への応用など、持続可能で高速な方法によって複数の色を作り出せることが役立つさまざまな分野で利用される可能性をもっている。
(forbes.com 原文)