CO2ほぼゼロ、飛行機の次世代燃料は「アンモニア」

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今年1月にアメリカ・サンディエゴで開催されたクリーンテックフォーラムで、最も注目を集めたトピックの一つが「SAF」と呼ばれる次世代の航空燃料だ。SAFは日本の空港でも2030年から一部使用することが義務付けられている。

フォーラムの期間中、SAFの原料となるe-fuel*を製造するアメリカのスタートアップ「Infinium(インフィニウム)」は、アンモニア発電システムを手がける「Amogy(アモジー)」との提携を発表した。2社が手を組んで生み出す燃料は、日本の航空産業にとっても欠かせないものとなるかもしれない。実際に日本をはじめとしたアジア進出も視野に入れているという彼らに話を聞いた。

*e-fuel:再生可能エネルギー(通常は太陽光や風力など)から取得された電力を使用して作られる燃料。グリーン水素と二酸化炭素(CO2)から合成される。
*アンモニア分解技術:アンモニアを窒素と水素に分解する技術

語り手:
・Infinium CEO Robert Schuetzle(ロバート・シュエッツル)
・Amogy ビジネス・戦略VP Maciek Lukawski(マシェク・ルコーフスキ)
聞き手:
・スタンフォード大学客員研究員 尾川真一

海運業界でも注目のアンモニア

尾川:e-fuelの生成においてアンモニアを使用するのはどのようなメリットがあるのでしょうか。
 
ロバート:まずはe-fuelの仕組みからお話ししましょう。e-fuelとはCO2とグリーン水素から生成される燃料です。そのグリーン水素は多くの場合、水の電気分解で生成しますが、アジアなど一部の市場では、この方法で十分な水素を得るのは難しい状況です。例えば、電力構成における日本の再エネ比率は現状2割ほどで、水素を生成するために使うほどの余裕はありません。

ただ、グリーン水素を生成するには水の電気分解以外にも方法があり、それがアンモニアです。アンモニアは輸送コストが低く、水素と比べて輸送管理も容易というメリットがあります。アンモニアを「グリーン水素の生成・輸送手段」として考えてみてください。

私たちはe-fuelの技術開発からプロジェクトの開発まで一貫して行っていますが、アンモニア分解の技術をもつアモジーと手を組めば、より低コストの燃料製造ができると思ったのです。

マシェク:アモジーはアンモニアを低炭素燃料として使用し、海上や発電セクターの脱炭素化することを目指しています。アンモニアは非常にコスト効果が高く量産しやすい燃料で、海運業界では今後アンモニアが重要な役割を果たすという見方が広がっています。日本、韓国、シンガポールなどアジアの先進国では、アンモニアを発電に利用する動きもあります。

今回の提携での主な役割は、最も低コストの水素をインフィニウムに提供することです。アンモニアはすでに流通網が発達しており、世界約200の港で貯蔵タンクや工場等につながるパイプラインを利用できるほか、アンモニア輸送のノウハウをもつ海運会社がすでに存在しています。


インフィニウムのロバート(左)とアモジーのマシェク。クリーンテックフォーラムにて。

英国・EUでは「一部をSAFに」が義務付け

尾川:航空業界の脱炭素化の選択肢としてSAFが最も有力視されているのはなぜですか?

ロバート:
現在使われている航空機の機体、空港の燃料貯蔵・給油施設がそのまま使えるという点が大きいです。

航空業界は世の中のCO2排出の約2%を占めており、業界の要件を満たすためには大規模製造をする必要があります。私たちは現在、米テキサス州でドロップイン方式(既存石油精製施設をそのまま使用する方法)を用いてe-fuelを生産していますが、これは世界初の試みです。そのほかビル・ゲイツ氏が設立した脱炭素ファンド、ブレークスルー・エナジー・カタリストから資金を得て世界中で12のプロジェクトを進めています。政府とも協力していて、英国やEUでは2025年から燃料の一部をSAFにすることが義務付けられますが、これらの規制は、私たちの提案とともに生まれたものです。
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文=尾川真一 編集=露原直人

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