サンドラは大音響のために取材を中止し、あらためて機会をつくるからと学生を帰らせる。一方、視覚に障がいのある息子のダニエルは、愛犬のスヌープに先導されながら散歩に出る。
依然、大音響で音楽が鳴り響くなか、ダニエルとスヌープが散歩から戻ると、山荘の前でサミュエルが頭から血を流して横たわっていた。おぼろげな視界のなかで父親の異変に気づいたダニエルが叫び声をあげると、それを聞いてサンドラが駆けつけるが、既にサミュエルはこときれていた。
(c)2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma
サミュエルは屋根裏部屋で改装作業をしていて、その窓から落下したと見られたが、検視の結果、頭部に殴打によると思われる外傷があり、事故か自殺か、あるいは何者かによる殺人かと報告される。
取材を中止したあと、サンドラは部屋に戻って午睡をとっていたというのだが、山荘には彼女しかおらず、他殺ということであれば、当然、彼女に嫌疑がかかってくる。
サンドラは旧知の弁護士であるヴァンサン(スワン・アルロー)を呼び、自らは潔白だと主張する。しかし、捜査が進み、検察はサンドラを起訴する。その理由は、前日に夫婦が激しく口論して殴り合うような音声録音が死んだサミュエルのUSBメモリーに残されていたことだった。
(c)2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma
いったい真実はどこにあるのか。ドキュメンタリータッチを駆使して、物語は突然の悲劇に襲われた家族の真相へと迫っていく。中盤からは法廷劇に転じて、半年前にあった夫の「自殺未遂」など次々と新しい事実が明らかにされていく。練りに練られた脚本、それを確実に移し替えていくトリエ監督の映像巧者ぶり。観る者が享受する作品への没入感には並々ならぬものがある。
実は、「落下の解剖学」の冒頭は、丸いボールが階段を落ちてくるシーンから始まる。続いて犬のスヌープが登場して、床まで落ちたボールを咥え、また階段を駆け上っていく。導入部としてやや面食らうが、「落下」を暗示させるシーンであり、かなり印象に残る。そして、この犬がのちのち重要な役割を果たすことにもなるのだ。