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2024.02.23

映画「落下の解剖学」 夫の死は、事故か自殺か殺人か? 秘められた家族の真相を描く

映画「落下の解剖学」より(c)2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma

「落下の解剖学」とは何やら堅苦しい邦題に思えるが、原題である「Anatomie d'une chute」の直訳だ。フランスで製作された作品だが、英題も「Anatomy of a Fall」で、こちらもそのままフランス語を英語に置き換えている。

原題が難解な外国作品を日本で公開する場合、配給会社は内容に即してわかりやすい邦題をつけることが多く、このようにストレートなケースはあまりないかもしれない。

「解剖学」とあるが、医学関係に題材を採った作品ではない。1人の男性の不審死をめぐるミステリであり、後半は白熱の法廷劇へと繋がっていく。綴られていくのは濃密な家族のドラマであり、次第に真実が明らかにされていくスリリングな展開は、152分、いささか倦きさせることがない。

昨年のカンヌ国際映画祭では、最高賞である「パルム・ドール」を受賞しており、審査員長を務めたリューベン・オストルンド監督からは「強烈な体験だった」と圧倒的な賛辞が贈られている。その後の賞レースでも注目を浴び、先ごろ決定したゴールデン・グローブ賞では、ドラマ部門の非英語作品賞と脚本賞に輝いている。

また、3月11日(日本時間)に授賞式が行われる今年度のアカデミー賞でも、作品賞、監督賞、主演女優賞など主要部門を含む5部門にノミネートされ、フランスで製作された作品であるにもかかわらず、大きな注目を集めている。

大音響とともに漂う不穏な雰囲気

作家であるサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)はドイツの出身でありながら、フランス人のサミュエル(サミュエル・タイス)と家庭を築き、いまは雪深い彼の故郷にある山荘で暮らしていた。

2人には11歳の息子ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)がいる。以前家族がロンドンで暮らしていたときにダニエルが交通事故に遭遇し視力障がいが残ったため、経済的な困窮もあり、この人里離れた地に移り住んだ。

精力的に作家活動をしているサンドラに対して、夫のサミュエルは地元で教師をしながら、なかなか完成を見ない小説の執筆を続けていた。この妻と夫の逆転とも言えるシチュエーションが、のちに続く重要なドラマの起点ともなっている。
(c)2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma
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文=稲垣伸寿

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