事業継承

2024.02.26 18:30

事業承継から見る日本経済の未来 入山章栄教授が解説

Nuthawut Somsuk / Getty Images

日本の中小企業をめぐる「事業承継」の局面に、大きな変化が起きている。Forbes JAPAN2024年4月号(2月24日発売)では、そんな事業承継の多様化に注目し、100の事例を集めた「これからの新・事業承継100」を特集。その特別監修を務めた早稲田大学大学院ビジネススクールの入山章栄教授が、事業承継で見える「会社の明暗」を語った。


「事業承継」という視点から日本経済を見ていくと、非常に面白い時代がやって来たと言えます。経営者が高齢化する一方で後継者不足という時代であるがゆえに、大きな変化が起こりやすくなっているのです。実際にどんな現象が見えてきたか、整理してみましょう。

1. 中小企業は尖ったベンチャー型に

親族など同族の継承であれ、従業員の昇格による継承であれ、若い経営者には先代の事業内容を順当に守っていくタイプがいる一方で、「やんちゃ型」が増えています。角度の大きく違う事業をスタートアップのように興して、ブレイクさせるタイプです。この変化が日本経済に大きく貢献するもので、鍵はデジタル化です。

例えば、創業家の子どもが親元を離れて外の世界で働いていたのに、何らかの事情で家業に戻ったとしましょう。家業は一見IT企業と違って古い産業に見えるかもしれません。しかし、日本の中小企業の多くは脈々と築きあげた有形無形の資産をもっています。顧客サービス、技術、地域のネットワークなど、強固な基盤がある。でも、経営が古いから会社を変えることができない。そこで会社の伸びしろを見抜き、デジタルと掛け合わせて跳ねる新世代が登場しているのです。

京都のヒルトップは事業承継後に会社のかたちを変えていき、革新的な技術を生み出しています。また、「出島型」は、先代の事業から地続きではあるけれど、本社とは距離を置いた「出島」で新規事業をつくりだすベンチャー型です。アメリカでイノベーションといえば、シリコンバレーのスタートアップが定番ですが、日本は厚い層の中小企業を土台にして登場するベンチャー型こそがイノベーションを起こすべき。ゼロから始めるスタートアップよりも効率的です。

今後、多くの中小企業がベンチャーに近い形に変化していくと思います。新しい世代が違う業界や遠くの世界を経験して「知の探索」をやってきたからこそ、かけ算ができるのです。

2. 注目される未来型承継のプレイヤー

事業承継のスキームを金融機関やM&A仲介会社など外部がつくるケースがありますが、そこに新しいプレイヤーが登場しています。

まず、サーチファンド。山口フィナンシャルグループが日本で初めて取り組み、経営者になりたいサーチャーと後継者が欲しい企業をマッチングさせ、投資資金を調達するファンドです。

同じく、「第三者承継が当たり前にできる」ことを目的にした会社があります。地銀出身者たちが設立したSoFunという会社は、後継者をマッチングさせるだけでなく、承継企業の株式を買い取り、一緒に成長を目指すチーム型経営を行うものです。また、生命保険会社が地域の商工団体と組むケースも。「承継は手続きでしかない」と、長期計画で会社を続けるために生命保険を利用したものです。後継者が前任者から株を譲渡した場合、莫大な相続税がかかる。そこで先代の死亡退職金を活用できるよう、生命保険を法人契約するものです。

そして、こうした外部プレイヤーのなかでも最も重要な役割と責任を果たすべきなのが地方銀行です。地銀は融資するだけでなく、真の意味でのデットガバナンス(企業統治への関与)を行い、正しく事業承継を促すために、例えば後継者がビジネススクールに通うことを条件とするなど、環境整備でリードすべきです。

今後、中小企業同士のM&Aや再編が促進されていくと思います。だからこそ、地銀の役割は大きくなると思うのです。

次ページ > 強力な「中小企業連合体」の登場

文=フォーブスジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事