昨年過去最悪を記録して政府が公表を取りやめた中国本土の若年失業率の影響を研究している香港の学者は、その研究を葬り去るべきか。非政府組織が中国の広域経済圏構想「一帯一路」による環境破壊に関する研究を中国で禁止されたくない場合、どうしたらよいのか。
ここ最近の動きを踏まえると、こうしたシナリオはもはや仮定の話にとどまらなくなりつつある。
昨年12月、中国のSNS「微博(ウェイボー)」は一部のユーザーに、中国経済についての悪口を言わないよう求めた。ユーザーは「中国経済をおとしめることを意図したさまざまな決まり文句」や「中国を戦略的に封じ込め、抑圧しようとする試み」を控えるよう促されている。
また、ここ数週間で、著名なエコノミストやジャーナリストの論評が中国のネット空間から削除されている。ちょうど習の側近らが、中国の経済や不動産部門、株式市場に関する明るい見通しを広めるよう働きかけているタイミングでだ。
これらは、力強く自信に満ちあふれた政府がとるような行動ではない。自国の資本市場が、世界で評価される状態にないと自覚している政府の行動だ。中国は、自国の経済が2021年以降に被った何兆ドルもの資金流出を反転させたいのであれば、むしろ透明性を高めるべきなのだ。良いニュースであれ悪いニュースであれ、公表させるのだ。
習は2012年に政権を発足させたあと、資源配分で市場に「決定的な役割」を担わせると約束した。ところが、その後10年間で中国経済はブラックボックス化がさらに進んだ。習時代は「検閲を再び偉大に」し、金融界の不透明性は増した。
コーポレートガバナンス(企業統治)が後退しただけではない。中国政府はこれらの現象を香港にも広げようとしている。信用格付け方法の改善や、市場監視メカニズムの透明性向上、非効率性と増大するリスクや不正行為に対するメディア界の監視機能などへの期待もしぼんでいる。
こうした諸々によって、習が自身で築き上げたと考える中国経済と、世界の投資家が向き合う中国経済の乖離は大きくなっている。繰り返しになるが、投資家の目から実態を隠すために照明を落とすような振る舞いは、2024年の自国経済に心配がなく自信に満ちた政府なら、まずやらないことだ。中国から良いニュースが届くのは、むしろ悪いニュースが流れるようになったときだろう。それは習指導部が中国経済への自信を取り戻した表れだろうから。
(forbes.com 原文)