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2024.02.18 08:00

AIで「全身スキャン」を迅速化、予防医療の革命に挑むスタートアップ ただし専門家は懸念も

エズラの全身MRIを常用する起業家で富豪のブライアン・ジョンソン(C)instagram @bryanjohnson_

エズラの全身MRIを常用する起業家で富豪のブライアン・ジョンソン(C)instagram @bryanjohnson_

ニューヨークを拠点とする医療関連スタートアップのEzra(エズラ)は、人工知能(AI)を使ってMRI(磁気共鳴画像装置)検査のプロセスを迅速化し、全身スキャンを身近なものにしようとしている。
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強力な磁石を使って臓器や骨、関節、血管を含む体内の組織の詳細な画像を生成するMRI検査は通常、身体の特定の部位を対象とし、特定の目的のために行われる。しかし、自らを「バイオハッカー」と定義し、長寿化のためのテクノロジーを愛するEzraの創業者でCEOのエミ・ガルは、「定期的な全身スキャンは、がんから膀胱結石まで、あらゆる潜在的な疾患を早期に発見し、治療するための普遍的なツールになるべきなのです」と主張する。

エズラは先日、同社のテクノロジーを主流にするため新たに2100万ドル(約31.5億円)のベンチャー資金を調達したと発表した。関係者によれば、エズラはこれまで累計4100万ドル(約61.5億円)を調達し、評価額は1億ドルから1億5000万ドル(約150億〜225億円)の間に達している。

ガルによれば、2018年に設立された同社の全身スキャンは、これまで7000人に利用されているが、1回の費用は2500ドル(約37万円)もかかり、保険は適用されない。顧客の約3分の1はハイテク業界で働く裕福なバイオハッカーで、残りの顧客は「がんへの意識が高い人たち」だという。
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しかし、医学の専門家たちは、全身MRI検査が大多数の患者にとって、益になるよりも害になることを懸念している。というのも、この検査は、がんや他の病気のリスクが特にない人々を過剰治療や過剰診断の対象にしてしまうおそれがあるからだ。不必要な経過観察ための処置は当然、莫大なコストを患者に押し付けることにつながる。

ガルによれば、エズラはスクリーニングのための全身スキャンを患者に提供し、その結果、ガンや同社が対象とする500の疾患の兆候があれば、患者のかかりつけの医師に診断を委託する。

「街頭インタビューで、追跡検査が必要になるかもしれないスキャンをしたいですか、それともがんで死にたいですか、と10人に尋ねたら、ほとんど全員が検査を受けたいと答えるでしょう」と彼は話す。

しかし、彼の話は論理的で一般人にアピールするが、「科学的根拠はない」と放射線科医でミシガン大学教授のマシュー・ダベンポートはフォーブスに語った。彼によると、がんの15パーセントから75パーセントは不活性なもので、それが寿命を縮めたりする可能性は非常に低いという。

「このような企業は、人々の弱さや恐怖心を食い物にしていると思うので悲しくなります。彼らが発見したと主張しているものは、そもそも害を及ぼすことがなかったはずのものなのです」とダベンポート教授は述べた。
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編集=上田裕資

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