「ドリーム・オブ・ザ・デザート」(砂漠の夢) と名づけられた中東初の豪華列車は、サウジアラビアを駆け抜けるぜいたくで目を見張るような旅行体験を約束している。
総距離およそ1300キロの旅は、首都リヤドを出発し、ヨルダン国境に向かって北西へ進路をとる。ルート上には風光明媚な砂漠や、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されている遺跡の数々がある。見どころは、歴史あるオアシス都市ハイル、農業が盛んで「食のバスケット」と呼ばれるカシム州、ジャウフ州にあるキング・サルマン・ビン・アブドルアジズ王立自然保護区などだ。旅の終着点はヨルダン国境近くの町クライヤート。乗客は1泊か2泊の旅行を予約できる。
この豪華列車はサウジアラビア鉄道公社(SAR)とイタリアの高級接客サービス企業アルセナーレ・グループの提携事業で、投資額は2億サウジアラビアリヤル(約80億円)相当とされる。
アルセナーレ・グループは、会員制クラブ「ソーホーハウス・ローマ」や5つ星ホテル「サンタベネーレ・マラテア」、オリエント・エクスプレスの新型車両「ラ・ドルチェ・ビータ」などを手がけた高級ブランド企業。2024年にはローマ、ベネチア、トスカーナに高級ホテルの開業を予定している。
「豪華列車クルーズ」をうたうドリーム・オブ・ザ・デザート号は40両編成で、乗客定員は82名、高級レストランやラウンジ・バーなどを備える。アルセナーレによると、車両は「サウジアラビアの様式と伝統」に着想を得た完全カスタムデザイン。すでに製造が始まっており、来年夏の製造完了と同年内の運行開始を見込む。
サウジアラビアは、長く西側諸国からの観光客に閉ざされた王国だった。2019年にようやく外国人観光客の受け入れを始めたばかりで、多額の資金を投じて観光客誘致に取り組んでいる。最も注目を集めているプロジェクトは、紅海北端にあるアカバ湾を挟んでエジプトと向かい合う北西部タブク州に、何もないところから建造される新未来都市「NEOM(ネオム)」だ。紅海に浮かぶ高級アイランドリゾート「シンダラー島」や、山岳地帯のスキーリゾート「トロヘナ」などの開発が予定されている。
サウジ政府は、今後10年間で8000億ドル(約120兆円)以上を観光開発に投資し、2030年までに年間7000万人の外国人観光客受け入れを目指している。
ドリーム・オブ・ザ・デザート号を通じて、サウジは豪華列車旅行市場だけでなく、体験型旅行、文化的な旅行、スロートラベルといった最近の旅行トレンドにも参入しようとしている。しかも豪華列車の旅といえば、アガサ・クリスティの推理小説でおなじみの1920~30年代を想起させるロマンチックな旅行手段の代表格である。外国人に対するサウジアラビアのイメージを和らげるのにも貢献するだろう。
ドリーム・オブ・ザ・デザート号の予約は2024年末に開始予定。詳細はこちら。
(forbes.com 原文)