Forbes JAPAN BrandVoice Studio世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版
2023年は、みずほフィナンシャルグループの源流である第一国立銀行の発足から数えて150年目となる特別な年だった。24年、グループ5社(みずほフィナンシャルグループ、みずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券、みずほリサーチ&テクノロジーズ)は、新たな人事の枠組みである〈かなで〉に移行する。グループ経営の根幹プロジェクトを支援しているPwCコンサルティングが、この23年、24年の意義を深掘りする。
国内外で連結従業員約5万人を抱えるみずほフィナンシャルグループは、2023年度から新しい企業理念を掲げている。その決定に至った背景とは。また、新しい人事の枠組み〈かなで〉に象徴される人的資本経営の取り組みとは。そして、これから向かおうとしている未来とは。みずほフィナンシャルグループの取締役 兼 執行役 グループCHROを務める上ノ山信宏、執行役 グループCPO 兼 グループCCuOを務める秋田夏実の両名に、PwCコンサルティングのパートナーである永野隆一と池田明子が聞いた。
パッションを抱いた150名の有志が立ち上がった
池田 明子(以下、池田):みずほフィナンシャルグループ(以下、〈みずほ〉)は、23年度から企業理念を再定義され、新たに「ともに挑む。ともに実る。」というパーパスを掲げられました。また、5か年経営計画(19〜23年度)を一年前倒しして、23年度から始まる3年間の中期経営計画(23〜25年度)も策定されています。これらの動きから、〈みずほ〉の新しいチャレンジに向けた強い意気込みを感じます。
企業理念の再定義と新たなパーパスの制定は、どのような経緯のもとで行われたのでしょうか。そこに込められた想いや、上位概念を一新する過程でのやり取りについてお聞かせください。
秋田 夏実(以下、秋田):2023年、〈みずほ〉は企業理念を再定義し、新たな中期経営計画をスタートさせました。「〈みずほ〉の存在意義を見つめ直しつつ、いかにお客さまと社会の課題解決にともに挑戦し、成長を遂げていくか」という議論は、22年4月から本格化しています。〈みずほ〉のグループ各社からパッションをもって、自らの意思で集まった150名の有志により、改革を先導するワーキンググループが立ち上がったのです。
ワーキンググループの組成によって始まった話し合いに経営陣もジョインして、〈みずほ〉の未来に向けた議論が6カ月にわたって行われた末、「新たな企業理念を掲げる必要がある」という一つの結論が導き出されました。
永野 隆一(以下、永野):未来を変えていくための侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論がワーキンググループによるボトムアップで始動している——。その自律性に私は大きな希望を感じます。
上ノ山 信宏(以下、上ノ山):ワーキンググループに参加したメンバーは、変革に対する強い意思を示してくれたと感じています。議論は「価値観・行動軸」「コミュニケーション変革」「業務スタイル変革」「主体的行動のサポート」という4つのテーマで行われました。また、ワーキンググループの活動状況はグループ社員向けのWEBサイトにて共有され、アンケートなどを通じた意見交換も活発に行われました。
秋田:社員からは、約3,200件の意見が届きました。22年12月から私が就いている「CCuO(Chief Culture Officer)」のポジションもワーキンググループによる提言をきっかけにして新設されたものです。
池田:ボトムアップの議論によって立ち上がった新たな企業理念は、「基本理念」「パーパス」「バリュー」という3つの要素から成り立っていますね。
上ノ山:そうです。従来の企業理念から「基本理念」と「バリュー」を改訂し、(従来の「ビジョン」の代わりに)新たに「パーパス」を制定しました。まずは経営陣が思いを込めて「基本理念」「パーパス」「バリュー」の骨子をつくり、それらに社員から届いた3,200件の意見を集約・反映したうえで、新たな企業理念体系が生まれました。
池田:〈みずほ〉の社会的な役割・存在意義として新たに定められたパーパス「ともに挑む。ともに実る。」は、課題に対するお客さまの挑戦を支え、自らも変革に挑戦しながら、ともに成長するという強い決意を表現したものですね。
秋田:企業理念を再定義して以来、パーパスの「ともに挑む。ともに実る。」が〈みずほ〉のブランドスローガンとしても掲げられるようになり、内部・外部の双方のコミュニケーションの活性化に貢献していると感じています。
池田:「ともに挑む。ともに実る。」は、〈みずほ〉の連結従業員約5万人を奮い立たせる決意であると同時に、あらゆるステークホルダーとの関係性を強固にするための約束でもあるわけですね。外部のステークホルダーに対して〈みずほ〉との共創を促すメッセージにもなっています。これ一本で内側と外側の両方に効いて、あらゆるエンゲージメントの向上に貢献するスローガンだと私も認識しています。
(左)秋田夏実 みずほフィナンシャルグループ 執行役 グループCPO 兼 グループCCuO、(右)上ノ山信宏 みずほフィナンシャルグループ 取締役 兼 執行役 グループCHRO
CHROとCPOの協働体制が〈みずほ〉を活気づける
永野:〈みずほ〉における人事運営の推進は、グループCHRO(Chief Human Resource Officer)の上ノ山様、グループCPO(Chief People Officer)の秋田様というお二人の協働体制で行われています。まずは、上ノ山様にお聞きします。〈みずほ〉においてCHROが果たすべき役割とはどのようなものであると、上ノ山様はお考えでしょうか。
上ノ山:グループCHROは、〈みずほ〉における人事戦略・人的資本経営責任者としてグループ全体の人事運営に関する取り組みを企画・推進しています。〈みずほ〉は、それぞれに社会のなかで欠かせない機能・働きをもつ会社の集まりであり、人材の集団です。〈みずほ〉の内なる多様性を最大限生かしていくためには、まず個々の力を高めていくことが不可欠になります。一人ひとりから湧き出てくる発想や情熱が、グループの中で滞ることなく対流・還流することにより、組織としての成長も果たされるでしょう。
そのためにも、ビジネス戦略を実現する人材の最適配置や、タフなアサイメントを通じた人材育成が必要です。同時に、年齢や国籍、ジェンダーなどに関係なく真に実力ある人材を登用したり、役割や成果に応じて人材市場水準に対して十分な処遇を提供したりするなど、あらゆる人事運営を統合的に徹底して行っていきます。
永野:それでは、秋田様にもお聞きします。〈みずほ〉におけるCPOの役割について、どのようにお考えでしょうか。
秋田:22年5月より〈みずほ〉が新設し、私が着任したグループCPOは、人事運営のうち、人材開発・組織開発、多様な人材の活躍の推進などに取り組んでいます。今、グループCHROおよびグループCPOが相互に補完し合い、人材と組織の強化に向けて動いているわけですが、私が最も力を入れてきたのは「つなぐ」ことです。その一例として、新たに始めた組織開発の取り組みが挙げられます。個々人の成長に主眼を置くのはもちろんのこと、良好なコミュニケーションやチームワークといったワードを枕詞にして「人と人の関係性」に働きかけ、チーム・組織としての「つながり」を創出していくことにより、組織全体のパフォーマンスの向上を目指しているところです。こうした取り組みはコロナ禍を経て、より重要になってきていると思います。
永野:秋田様は22年12月以降、ワーキンググループからの提言に端を発して新設されたグループCCuOにも就かれていますが(※当時の〈みずほ〉は、同時にカルチャー変革推進プロジェクトチームも立ち上げている。同チームは、23年4月からコーポレートカルチャー室に改組された)、こちらのポジションについても自身の役割や職責をどのように捉え、どのような熱意や態度で日々の仕事に取り組まれているか教えていただけますでしょうか。
秋田:「グループCCuO」というポジションを新設し、〈みずほ〉のカルチャー改革を断行すべし。そのような声がボトムアップで生まれてきたこと自体に大変な意義があると、私は感じています。まさに、「カルチャーは上意下達でつくられるものではない」からです。「ともに挑む。ともに実る。」というパーパスへの自発的共感、その共感に基づいた自律的行動があってはじめて、〈みずほ〉の全体を包み込む価値観が育まれ、カルチャー改革が進行していきます。そのようにして、「自発」や「自律」を起点にしたカルチャーが組織に深く浸透すれば、社員はより自分らしく活躍できるようになるでしょうし、そうした活躍にやりがいを感じながら誇りをもって働くことができるようにもなるでしょう。人事制度改革とカルチャー改革は密接に関係していますので、最良の相乗効果を生み出せるようにグループCHROの上ノ山と共創してまいります。
社員が「自分らしくある」ための〈かなで〉が始まる
池田:今、〈みずほ〉は、新たな人事の枠組み〈かなで〉を通じて企業価値の源泉である人材を持続的に強化し、中期経営計画で掲げた社会価値創出と企業価値向上の実現を目指していらっしゃいます。PwCも、「各ビジネスで求める専門性の定義」や「ビジネスを支えるための人材データ活用」などのお手伝いをさせていただきました。
各事業のビジネス戦略の実現を支える人事戦略・人事運営を推進するとともに、社員一人ひとりの自分らしい成長・チャレンジを支える枠組みが〈かなで〉であると私も理解しています。まずは、今の〈みずほ〉に〈かなで〉が必要とされる理由を教えてください。
上ノ山:経済・社会の構造変化が進行し、人々の価値観や生活様式、企業活動にも急速な変化が起きている現在は、会社と社員の関係性を見直し、再構築するタイミングではないだろうか——。そのような問いを起点に、人事の大きな建て付けを抜本的に見直そうという機運が高まり、具体的な枠組みとして打ち出したのが〈かなで〉になります。
〈かなで〉という名称は「Co-creation、Authenticity、Nurturing、Agility、Diversity, Equity & Inclusion、Engagement」の頭文字をとったもので、22年5月にグループCEOの木原正裕がコンセプトを発信しました。この名称には社員と会社が「ともに創る。ともに奏でる。」という思いも込めています。
池田:〈かなで〉は、社員が「自分らしくある」ということを大切に考えた枠組みであって、例えば、脱年功序列や脱一律をうたっていますね。
秋田:〈かなで〉は、「〈みずほ〉で働く一人ひとりが“自分らしくある”ことを実現する。」という理念に基づいて設計されています。戦略人事の土台になるのは社員一人ひとりのナラティブ(物語)ですから、個に注目して職業人としてのプロフェッショナリティを高めていかなければなりません。そのうえで、すべての社員の「働きやすさ」と「働きがい」の向上に取り組んでいきます。そして、ダイバーシティやインクルージョンを大切にしながら、建設的で自律的な議論と行動を通じて〈みずほ〉で働くすべての人がつながり合い、新たな視点で変革や改善に取り組み続け、さまざまな挑戦の蓄積によって未来を変えていくことを目指します。
「誇りが出会う場所」という理想を追い求めて
永野:〈みずほ〉のパーパス「ともに挑む。ともに実る。」を策定する過程では、ワーキンググループによる自律的な議論がありました。〈かなで〉においても社員の自律性を反映させる仕掛けが組み込まれているのが特徴的ですね。
秋田:そうです。〈かなで〉も社員の声を取り入れながら創ってきました。自らの意見を発信するのはもちろん、「会社の考え方を社員に伝え、社員の声を会社に届ける」という役割を果たし、社員と会社の結節点となったのがコ・クリエイターです。〈かなで〉による社員のナラティブの実現には、〈みずほ〉の各社から自発的に集まってきたコ・クリエイターの存在が欠かせないものとなっています。
(左)池田明子 PwCコンサルティング 執行役員 パートナー、(右)永野隆一 PwCコンサルティング 執行役員 パートナー
上ノ山:「自分らしくある」というキーワードで〈かなで〉を論じる際、もう一つ大事なトピックが「戦略人事の実践」です。これからの〈みずほ〉は、〈かなで〉を通じてビジネス戦略とアライメントが取れた人材マネジメントを行っていきます。長期的視点に立って将来の経営やビジネスをリードする人材を育成すると同時に、時々の環境変化に応じた機動的な人材配置も実現していきます。これまでの〈みずほ〉は、人事部門がすべての人事権を掌握し、中央集権的に人材マネジメントを行ってきました。しかし、これからはビジネスの各現場に自律性をもってもらい、人事権を中央から分散させます。規律は確保しつつも、ビジネスと人事を全体的・整合的に運用することが、人的資本経営の本質部分だと考えています。
少し先の未来から現在を振り返った際には、「〈かなで〉が始まった24年が、〈みずほ〉の歴史的な大転換だった!」と語られるよう、これからも取り組んでいきます。
池田:それでは、最後の質問です。これから先、お二人は、〈みずほ〉をどのような会社にしていきたいとお考えでしょうか。
秋田:例えば、〈みずほ〉で働いていることを、社員の家族からも「いいね!」と言ってもらえるような、社員が誇りをもてる会社にしていきたいですね。これは経営の目標であると同時に、社員全員の目標でもあると思います。社員一人ひとりが自分の思いを発信し、自律的に行動できる。そのような環境を整えることができれば、きっとよい方向に進んでいくでしょう。
上ノ山:私は、新卒で〈みずほ〉に入りました。そういう生き方があってもいいし、秋田のように途中から入ってきてもいい。あるいは途中で入ってきて抜けていく人、いったん抜けてからまた戻ってくる人がいてもいい。〈みずほ〉との関わり方がどのようであったとしても、充実感や自己成長実感、幸福感とともに日々を過ごしてほしいと思います。幸せな時間が過ごせたことを、社員同士がお互いに誇れる——。つまり、「誇りが出会う場所」にしていきたいと考えています。これは究極の理想かもしれませんが、そこを目指していきます。
上ノ山 信宏(かみのやま・のぶひろ)
みずほフィナンシャルグループ 取締役 兼 執行役 グループCHRO。東京大学工学部を卒業後の1991年、旧日本興業銀行に入行。2015年にグループ人事部副部長、21年に取締役 兼 執行役常務 人事グループ長などを経て、23年4月から現職。
秋田 夏実(あきた・なつみ)
みずほフィナンシャルグループ 執行役 グループCPO 兼 グループCCuO。東京大学経済学部卒業、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院卒業(MBA)。マスターカード日本地区副社長、シティバンク銀行デジタルソリューション部長などを経て、2018年にアドビ日本法人副社長に就任。22年5月、みずほフィナンシャルグループに入社。
永野 隆一(ながの・りゅういち)
執行役員 パートナー、 PwCコンサルティング合同会社
大手監査法人を経て2016年にPwCコンサルティングに入社。以後、リスク・コンプライアンス・ESG・ファイナンスの分野を中心に、金融機関のトランスフォーメーションに係る支援業務に従事。
池田 明子(いけだ・あきこ)
執行役員 パートナー、 PwCコンサルティング合同会社
大手コンサルティング会社を経てPwCコンサルティングに入社。金融サービス事業部にてBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)、国内外大規模システム開発におけるプロジェクトマネジメント、タレントマネジメント・チェンジマネジメントなどの支援業務に従事。
Promoted by PwCコンサルティング合同会社text by Kiyoto Kuniryophotographs by Shuji Gotoedited by Akio Takashiro
PwC コンサルティングはプロフェッショナルサービスファームとして、日本の未来を担いグローバルに活躍する企業と強固な信頼関係のもとで併走し、そのビジョンを共に描いている。本連載では、同社のプロフェッショナルが、未来創造に向けたイノベーションを進める企業のキーマンと対談し、それぞれの使命と存在意義について、そして望むべき未来とビジョンついて語り合う。