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2024.02.15 08:30

株価3000%上昇の大化けも、乱立する「ペニー株」IPOの危険な実態

日下部博一

極端なボラティリティ

ジン・メディカルのような魅力的なストーリー株は、金融の論理を無視したバリュエーションにまで高騰する可能性がある一方で、この種の株は株価操作や極端なボラティリティ(価格変動率)のリスクを抱えている。

個人投資家がペニー株のIPOに投資してきた長い歴史は、決して良いものではなかった。OTCマーケッツ・グループが最近公表した「合法的だが酷い(Lawful But Awful)」と題したレポートでは、2022年に上場した91社のマイクロキャップ株が、2023年8月時点で平均65%下落していた。

ジョージタウン大学マクドノウ・ビジネススクールのジェームス・エンジェル教授は、「私が思うに、この状況は投機家の大馬鹿理論が進行しているようだ」と述べている。

「投機家たちが、このようないかがわしいものに手を出す一方で、株価操作を行う者たちはゲームを楽しんでいる。しかし、浮動株の少ない銘柄が急騰すると、インデックス・プロバイダーは高値で買わざるを得なくなり、そのため、株価が必然的に下落したときに損害を被るのは、インデックスに投資している罪のない傍観者たちだ」と、エンジェル教授は付け加えた。このようなマイクロキャップ株のIPOの一部は、ナスダックに連動するフィデリティのONEQや、ナスダックとニューヨーク証券取引所の上場銘柄に連動するiシェアーズのITOTのような、幅広いETF(上場投資信託)に組み込まれている。

ジン・メディカルのIPOの引受会社であるプライム・ナンバー・キャピタルは、元BNPパリバの幹部で、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレー、メリルリンチといったウォール街の大手を渡り歩いた経歴を誇るシャオヤン・ジアンCEOによって2018年に設立された。同社のウェブサイトには、19社のIPOを完了し、総額16億ドル(約2400億円)を調達したことが記載されている。また、マンハッタンの一等地にオフィスを構え、「セントラルパークの素晴らしい眺望」を自慢している。しかし、グーグルで検索してみると、彼らがオフィスを構えると主張する場所は、実際にはコワーキング・スペースであることが判明した。

ジン・メディカルは最近3000%の急騰を見せ、プライム社にとってのホームランとなった。しかし、同社が提供する他の投資案件はほとんどすべて失敗しており、平均でマイナス65%のリターンを記録している。

プライム社はフォーブスによるコメントの要請に応じず、シャオヤン・ジアンCEOはリンクトインを通じて彼女に送られた質問に答えなかった。

しかし、ジン・メディカルの好調な株価も、そう長くは続かないかもしれない。ナスダックは12月に同社に上場廃止通知を出している。ジン・メディカルは、株価の上昇により時価総額が17億3000万ドルに達したにもかかわらず、同社の株は少数の株主に集中しており、300人以上の一般株主がそれぞれ最低でも100株を所有するという取引所の要件を満たしていない。ジン・メディカルは3月にナスダックの委員会で弁明を予定している。

(注:ジン・メディカルは2月8日に1株を20株に分割した。記事中の株価はこの変更を反映している)

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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