株価3000%上昇の大化けも、乱立する「ペニー株」IPOの危険な実態

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上海から高速列車で約1時間の距離にある常州市を拠点とする「ハイエンドな」車椅子メーカーが、ジン・メディカル・インターナショナルだ。2020年1月にケイマン諸島で設立された同社は、人間工学に基づく軽量設計の車椅子を開発した企業で、最近では電動モデルの製造も開始した。

ジン・メディカルは昨年3月、プライム・ナンバー・キャピタルというあまり知られていないニューヨークの投資銀行の助けを借りて米ナスダックで新規株式公開(IPO)を果たし、1株あたり40セントで800万ドル(約12億円)を調達した。エヌビディアのような市場のスターを含むナスダック100指数が過去12カ月で約40%上昇したのに対し、ジン・メディカルの株価は14ドルまで上昇し、3000%近いホームランとなった。同社は2023年8月以降、米証券取引委員会(SEC)に財務諸表を提出していないが、その当時の売上高は年間約2000万ドル(約30億円)、利益は約350万ドル(約5.3億円)で、株価収益率(PER)は500を超えていた。

ジン・メディカルによるこれまでに最も重要なニュースは、昨年12月に発表された中国の医療機器メーカーを買収する可能性のみだ。このメーカーは、ビッグデータ分析技術を活用し、中国の1600の病院間で車椅子をレンタルまたはシェアしているという。しかし、2024年3月に本格的な交渉を開始するということ以外、この買収計画の詳細はほとんど明らかにされていない。

ジン・メディカルの株価急騰のストーリーは、相場操縦やペニー株(1株が1ドル未満の株)の詐欺行為で投獄された、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のモデルとなったジョーダン・ベルフォートに憧れるブローカーが夢見るタイプのものだ。中国の急速に高齢化が進む14億の人口と、人間工学に基づいた軽量な車椅子の需要、そしてビッグデータとAIを活用した「車椅子シェアリング」という話が加われば、2カ月前に1.5ドル以下だった株価を、14ドル以上に急騰させる株式ストーリーが出来上がる。

15年前であれば、ジン・メディカルはIPOよりも逆さ合併による上場を選んだかもしれない。逆さ合併というのは、未上場企業がすでに上場している「シェル」企業と合併することで、引受人が関与し、かなりのコストがかかる通常のIPOプロセスを回避するものだ。

しかし、SECは今年1月に逆さ上場や特別買収目的会社(SPAC)に関する規制の強化を発表し、利益相反やスポンサーの報酬、株主の希薄化についてのより厳格な情報開示を求めるようになった。これを受け、ジン・メディカルのような小規模企業は、逆さ上場によって公開市場にアクセスする利点が減少したため、IPOを選択することが多くなっている。

フロリダ州オーランドを拠点とする投資会社バックスウィング・ベンチャーズのマネージング・パートナーであるカイル・アスマンは、小型株はここしばらく勢いを失っていると指摘する。最近では、初心者の個人投資家でさえ、S&P500のような大型株中心のインデックスファンドに投資することが、簡単で勝率の高い戦略であることを理解している。
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編集=上田裕資

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