世界にはインテリジェンス情報を提供する民間企業や組織も少なくない。複雑さが増す国際情勢のなかで、日本企業も地政学リスクを把握する努力が必要だ。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻、2023年のハマス・イスラエルの衝突など、地政学的なイベントはグローバルなサプライチェーンをもつ日本企業にも大きな影響を与える。事前に地政学リスクを察知し、ビジネスへのダメージを回避することはできるのだろうか。
もちろん、専門家や国でも予想外の紛争の兆候をつかむことは難しいが、経営者も企業のリスクマネジメントの観点からも、地政学リスクや経営判断にかかわるインテリジェンスを手に入れる努力が必要な時代になっている。
インテリジェンス(諜報・情報)というと国の諜報機関が収集しているイメージがあるが、世界を見渡してみると、実は民間のインテリジェンス機関も数多く存在し、さまざまな企業が利用している。
例えば、外国企業や要人と取引する際、その企業が経済制裁措置の対象者リストに入っていないか、もしくは今後入りそうな活動をしていないかなどバックグラウンドや身元調査などが必要になる。そこでビジネス界の探偵ともいえる民間インテリジェンス機関が活躍するのだ。ではそれらの機関はどのようにデータを集めるのか。
例えば、次ページに挙げたハークルイト・アンド・カンパニー(Hakluyt & Company)は、元CIAなど情報機関職員の転職先として有名だ。そういった諜報員を使った手法で情報を集めているのだろう。諜報活動の歴史が長いイギリスでは元諜報員がつくった会社がいくつかある。
もちろん民間会社なので国家の機密情報に直接アクセスはできないはずだが、何らかの方法で間接的に入手しているケースもあるかもしれない。オランダのべリングキャット(Bellingcat)は調査会社ではないが、衛星写真など公開されているデータを使って明らかにされていない情報を独自手法で暴く。さらにはその手法を市民やジャーナリスト向けに教えるセミナーも行っている。
大量のデータ分析で、不正やリスクを見つける、ペイパル創業者のピーター・ティールが設立したパランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies)のような会社もある。CIAなどの米国家機関が顧客になっていることでも有名だ。また、元グーグルCEOのエリック・シュミットは国家安全保障に関する委員会の議長も務めるなど、テクノロジー企業と国家安全保障の距離も実は近いことがわかる。
日本企業も、中国で従業員が拘束される事案が起きているが、地政学的なリスクが絡むような事業は自社にあるか、何か起きたときにどんな解決方法があるのか、起きないように何をすればいいのか。情報をどうやって手に入れるのか。知らないでは済まされない時代となった。