人生短し、リンクス多し




元GSバンカー、世界のゴルフ場を行く

リンクス、この言葉に魅せられたビジネスマンがいる。
元ゴールドマン・サックス・バンカー小泉泰郎氏だ。現役時代から訪れたリンクスの数100。
セミリタイアした今も、その挑戦は続く。氏は言う、アンフェアな自然との戦い、それはビジネス人生そのものだ。


 リンクス(links)。この言葉を聞いたとき、みなさんはどういうイメージを持たれるだろうか? 海沿いのコース、下が固くて砂丘、へたすると怪我しかねないタフなコース、ひざ下まで伸びているラフ、全英オープンがよく開催される、風も強いしナイスショットでも風やリンクス特有のうねりでバンカーに入る、アンフェアなゴルフ場......、など人によって様々だろう。

 ゴルフダイジェストTVゴルフ用語集によれば、リンクスと呼ばれるためには、本来、次の条件のほぼすべてを満たす必要があるのだ、という。
・海沿いにある
・土壌が砂質で排水がいい
・自然の地形を生かしている
・自然にできたコブや傾斜を人工的に平らにしていない
・ラフには海岸特有の自然の植物がある
・バンカーが数多くあり、ほとんどが小さくて深い(砂が風に飛ばされることを防ぐため)
・フェアウェイに散水をしないか、しても稀
・立木がないか、あっても非常に少ない
・コースが真っすぐレイアウトされ、イン・アウトが折り返しになっている

 過去にどれだけの人がリンクスに魅せられ、はまっていったかはおいおい紹介していくが、今回、私のリンクス見聞をお伝えしたいと思ったきっかけは、自然と立ち向かうリンクスのゴルフと会社を経営することは極めて似ていると痛感するからである。

風の強弱、フェアウェイとは思えないほどのアンジュレーション、見えないところに隠されたポットバンカー、1日で春夏秋冬 の四季が訪れると言われる英国の気候と合わせて、毎日プレーしても同じ条件など二度とない、まさに人生、会社経営そのものである。リンクスの自然と戦うこと、それはセルフコントロールができているかどうかに尽きると思う。

 それは2007年の春だった。当時楽天トラベル社長だった山田善久君(名前からとって皆にゼンキューと呼ばれている。以下ゼンキュー)本人から楽天をやめてドーナツ屋をやるという話を聞いたのは。

ゴルフの聖地への道

 我々2人は日本興業銀行の1期違いだが、1990年春、2人とも行費留学生として、いわばMBA留学同級生として米国東海岸に飛び立った。ゼンキューはハーバードに、僕はダートマスという所謂アイビーリーグだった。

忙しい学生生活を過ごしながらも留学先が車で2時間しか離れておらず、お互い行き来をしてこれからの人生を語り合った。人生は恐らくあっという間に終わる、悔いのないようにいこう、一生懸命働き、それなりに稼いで早く引退してその暁にはフロリダかハワイのゴルフスクールで合宿に行こうと約束していた。

 その後も、結婚が同時期、長男長女も同級生、帰国後の社宅も一緒ということもあり、仲良くしていたが、同時に日本の銀行が不良債権問題で苦しみだしており、98年には日本長期信用銀行が、そしてその後間もなく日本債券信用銀行が破綻した。この間、98年3月と99年3月には銀行に公的資金が投入される事態になった。当時30代半ばで中堅として頑張っていた我々にはどうしようもない無力感が漂った。

 99年の6月29日、私はゴールドマン・サックスに転職することを決めた。一方のゼンキューは、当時ロンドンに赴任中。その夜、電話でお先に興銀をやめることになったと伝えたら、なんと、実は自分もたった今ロンドンで辞表を出した、行き先は同じゴールドマン・サックスだと聞き、驚愕。彼は、その後、ゴールドマン・サックスも半年で区切りをつけて楽天に参加。楽天の発展に大きく貢献し、2007年にいったん職を辞した後、10年、再び復帰、現在副社長として活躍中。

 今回、ドーナツ屋をやるのだったら盛大に引退祝いをやらねばならん、留学時代に約束していたゴルフ留学に行こう。でも、当時ゴールドマン・サックスの現役バンカーだった私は、1カ月は休めないので、2週間休暇をとってゴルフの聖地セント・アンドリュースを含むリンクスでのゴルフプレーと全英オープン観戦をすることで決まった。2人で行ってもいいが、せっかくだからもう一人誘おうと共通の先輩である加茂太郎さんをお誘いして、僕の齢40代そこそこのリンクス巡り人生がスタートしたのだった。 以来、これまでプレーしたリンクスの数は100。世界中のリンクスの数は246。人生短し、リンクス多し。

小泉泰郎 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.13 2015年8月号(2015/06/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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