世界のコンテナ輸送の30%近くが紅海とスエズ運河を経由し、世界貿易の15%が紅海を通過している。そのほとんどはアジア向けだ。輸送されるのは石油や天然ガスといった戦略的資源だけでなく、世界経済を回す原動力である日用品や生活必需品も含まれている。
紅海を経由する海上交通は、南端にある幅約32キロの難所バブ・エル・マンデブ海峡を必ず通る。フーシ派は昨年11月から、ここを通過する商船を無差別に攻撃し、世界のエネルギー市場を揺るがしている。フーシ派の主張は、イスラエルの侵攻を受けているパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスを支援するため、イスラエルと関係のある船舶を標的にしているというものだ。対して、欧米政府はフーシ派が無差別攻撃を行っていると非難している。
貨物保険では、紅海を通過する航路の保険料が急騰。フーシ派の攻撃が始まる前は貨物価格の0.6%程度が相場だったが、今や2%にまで上がった。さらに、保険会社は標準保険料に戦争危険料率を上乗せしており、スエズ運河航路の物流コストをいっそう押し上げている。
北アジアから米東海岸への海上運賃は、昨年10月上旬から137%上昇し、40フィートコンテナ1基あたり5100ドル(約76万円)となっている。北アジアから米西海岸への運賃も、131%増の3700ドル(約55万円)に跳ね上がった。紅海の混乱の影響は中国にも及んでいる。欧州への輸送コストは、昨年12月の3000ドル(約45万円)から約7000ドル(約105万円)へと倍増し、輸出主導の中国経済を大きく脅かしている。
紅海を通過する世界貿易の総額は年間1兆ドル(約149兆円)を超えるとされる。マースクやハパックロイドなどの海運大手は、紅海航路を全面的に停止し、南アフリカの喜望峰を迂回するルートを選択をしているが、航海距離が延びるため、1航程あたり100万ドル(約1.5億円)相当の追加燃料費が発生する。
こうした海運大手の負担は、燃料費だけですでに2億ドル(約299億円)近くに達している。海運危機の影響はさまざまな分野に波及しつつある。米家具メーカーのBDIファニチャーは、カリフォルニアまでの貨物輸送に際し、スエズ運河を迂回して太平洋を横断するルートを海運仲介業者に指示すると発表。独化学大手Gechemは、必要な化学品原料が不足しているとして食器洗い機とトイレの洗浄剤の生産を削減した。