エジプトがスエズ運河の通行料から得る収入は、年初から昨年比40%減少しており、損失額は約3億ドル(約448億円)に相当する。スエズ運河はエジプトにとって重要な外貨獲得源であり、この事態は同国経済に深刻な影響を及ぼす。
この危機がインフレ圧力に与える影響は、まだ不透明だ。サプライチェーンの逼迫状況を表す米ニューヨーク連邦準備銀行のグローバル・サプライチェーン圧力指数(GSCPI)は、昨年12月、今年1月とも大幅な上昇を示さなかったが、海運の混乱による影響は遅れて現れる可能性がある。同様に、欧州中央銀行(ECB)はユーロ圏の2024年のインフレ見通しを、2023年の5.4%から引き下げた2.7%で維持しているが、紅海の封鎖が長引けばインフレ率正常化のペースも鈍化するだろう。
エチオピア、ソマリア、ケニアといった東アフリカ諸国は、スエズ運河を経由して欧州連合(EU)、ロシア、ウクライナから輸入される小麦に大きく依存しており、特に危機的状況にある。国際穀物理事会(IGC)の穀物・油糧種子貨物指数(GOFI)によれば、輸送コストは新型コロナウイルス・パンデミック時のピークを依然下回っているものの、混乱が長期化すれば東アフリカの消費者は食料価格上昇の直撃を受けることになる。
紅海危機はパンデミック以来で最も深刻なサプライチェーンの混乱を引き起こし、世界経済の回復を脅かしている。貨物価格と原油価格の上昇がインフレを招く恐れもある。危機のコストはすでに数十億ドル(数千億円)に上り、今後も膨れ上がるだろう。しかも、コストを負担するのは主に危機対応能力に最も乏しい発展途上国となる。
スエズ運河の通行料損失、国際海運における外部支出の増加、国際取引コストの上昇、本来不要な燃料・食料コストの高騰などを合算した損失額は、控えめに見積もっても天文学的数字になる。欧州に限定しても、すでに約10億ドル(約1500億円)に上っている。東アジアと米国のデータが本記事執筆時点でまだ公表されていないことを考慮すると、この金額はさらに跳ね上がる。潜在的な損失を含めれば、なおさらだ。
危機が続く限り、損失は拡大する。米国とその同盟国だけが、この危機の迅速な終結を保証し、赤字が垂れ流す出血を止めることができる。
(forbes.com 原文)