政治

2024.02.13

殺人犯を釈放し、政治犯を投獄 ソビエト時代に逆戻りするロシア

英作家ジョージ・オーウェルがソビエト社会をモデルに描いた小説『1984年』(Getty Images)

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は死と破壊をもたらし、ロシアの人権はソビエト連邦崩壊後の最低水準にまで落ち込んでいる。軍事侵攻に加え、同国のウラジーミル・プーチン大統領が権力を握り続けていることも、ロシアの将来を不透明にしている。ロシア政府はウクライナ侵攻に批判的な人々を起訴し、長期刑を言い渡している。多くの国民は、ロシアが人権を尊重する正常な民主主義国家になるという希望を失っている。

米国の人権団体が描くロシア

人権保護団体の米フリーダムハウスは、プーチン政権下のロシアを次のように描いている。「忠実な治安部隊、従属的な司法、統制された報道環境、与党と融通の利く野党派閥で構成される議会によって、ロシア大統領府(クレムリン)は選挙を操作し、真の反対意見を押さえつけている。ロシア軍は2022年2月にウクライナに侵攻し、政府は国内の反対意見を鎮圧するため、個人の権利や自由をこれまで以上に抑圧している」

殺人犯は釈放され、政府に批判的な者は刑務所へ

現代のロシアの不穏な真実は、最近の複数の事例から浮かび上がってくる。ロシア政府は、政権やウクライナ侵攻に批判的な個人より、殺人犯を寛大に扱っているのだ。

元警察官のセルゲイ・ハジクルバノフは2014年、ロシア独立系紙ノーバヤ・ガゼータの記者アンナ・ポリトコフスカヤを殺害した罪で懲役20年の判決を受けた。ポリトコフスカヤは、ロシア南部チェチェン共和国の汚職や戦争犯罪を暴く記事を執筆していた。ハジクルバノフ受刑者はウクライナでの戦闘に参加するために刑務所から釈放され、大統領恩赦を受けた。

これは特殊な事例ではない。米CBSニュースは、ロシアでは最近、凶悪犯罪事件で有罪判決を受けた殺人犯が戦争の最前線で従軍した後、刑期のほんの一部しか服役していないにもかかわらず、釈放された事例が複数報じられていると伝えている。

ウラジスラフ・カニュスもその1人だ。カニュスは元交際相手のベラ・ペフテレワを数時間にわたって拷問し、111カ所に刺し傷を負わせた後、ひもで首を絞めて殺害した。カニュスは懲役17年の刑を言い渡されたが、ウクライナでの戦闘に参加した後、大統領恩赦を受け、実際には1年未満しか服役しなかった。

殺人犯に対する寛大な措置とは対照的に、ロシア当局は政府に対する抗議活動に偶発的に参加した人たちさえも厳しく扱っている。ロシア紙モスクワ・タイムズによると、芸術家で音楽家のアレクサンドラ・スコチレンコ(33)は同国北西部サンクトペテルブルクのスーパーで、ウクライナ侵攻を批判し、民間人の死亡を強調する声明文を値札に貼り換えた。スコチレンコはこの時、自身の行動が投獄につながるとは予想していなかった。裁判所は昨年11月16日、スコチレンコに懲役7年の判決を下した。スコチレンコは法廷で「塀の中にいようとも、私はあなたたちより自由だ。私は自分の意思で決断し、本音を言うことができるのだから」と表明した。
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翻訳・編集=安藤清香

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