人口減少に歯止めがかからないなか、日本の国力を上げるためには1人頭のGDPを上げるしかない。1人頭のGDP上げるということは給料を上げることにほぼ等しい。
ところが中小企業にはこれがなかなか難しい。だから、統廃合して中小企業を減らしていったほうが日本の将来のためだと言う評論家もいる。かなり説得力のある論だ。けれど本書、山野千枝さんの『劇的再建』は、このような見解に対して、思わぬ角度からの反論ともなっているのである。
各エピソードからにじみ出る深い愛情
継承することは尊い。日本にはこのような価値観が染み付いている。日本には100年以上つづく企業が3万社以上あり、世界全体の4割を占めている。200年続く企業の数は日本がダントツで1位(『劇的再建』より)だ、ということを僕は本書で知った。そもそも「株式会社」は、目的を達成したら解散するという組織ではない。株式会社は永遠に存続することを目標として設立される。この観点からすれば、日本社会はとても優秀であると言うことができる。
では、なぜ日本はこの点に秀でているのか? 本書は、その秘密を「アトツギ(跡継ぎ)」(著者の表現に倣ってカタカナにする)の生の声を聴きながら探っていく。
各エピソードからにじみ出るのは、育った街、育った家、苦楽をともにした家族や仲間に対する深い愛情である。これが窮地に至ったとき驚くべき特効薬となり、彼らを「なにくそ、まだまだ」と踏ん張らせる。
村上泰亮の『文明としてのイエ社会』によれば、日本のイエ(家)は血縁だけでなく経済的な共同性も中心としていたので、戦後日本は、企業をイエに見立てることによって、近代資本主義に適応できたという研究もあるが、このこととも合致しそうだ。
アトツギは、恵まれている面とそうでない面がある。
僕が幼少の頃、父親はおそらく従業員が10人程度の中小企業で働いていた。会社が用意してくれた材木倉庫の上に乗っかった部屋に住んでいた僕は、その向かいに建つ社屋兼社長宅に遊びに行き、食事をよばれたり、僕より2つ下の息子と遊んだりしていた。もちろん社長の家は立派で、玩具もたくさんあり、アトツギはほかの従業員からも丁寧に扱われていて、羨ましかった。
しかし、本書に登場するのは、どちらかというと継ぎたくて継いだわけではなく、一流と呼ばれる企業で最先端のビジネスをやっていたが、やはり祖父ちゃんや父ちゃんが守ってきた会社(都会に出る前は自分の手伝いなどしていた)が廃業寸前に追い込まれ、このまま潰れていくのを見るのは忍びなく、こうなったら実家に帰って頑張ってみるかと思ってそうしたものの、ここまでたいへんだとは思わなかったと泣いたアトツギたちの体験談である。