スタートアップのつもりでやり直す
語られるのは、いまは流行らない “根性論”だ。とにかくがむしゃらにやってるうちに、その姿に感動してか、思わぬ処から援助の手も差し伸べられ、なんとか事業を継続させたというエピソードが並ぶ。と同時に、著者が強調するのは、先代が息子に会社を残したのだとしたら、かならずそこには強みが埋まっているはずだ、という視点である。
かつての強みが強みでなくなり、時代の趨勢には逆らえないと諦めかけたときでさえ、角度を変えればその強みはちがった姿を現してくる。その強みを再起動させて、再建する。
これを著者は「ベンチャー型事業承継」と呼ぶ(カスタムジャパンの村井基輝社長の造語)。つまり、ただ単に引き継ぐのではなく、スタートアップするつもりでもういちどやり直すということだ。
世界のウェラブルIoT市場を牽引する「ミツフジ」の社長である三寺歩さんはまさしくそのような復活を遂げた。一流企業を辞めて戻った実家の稼業は西陣織の工場だ。詳しいことはぜひ本書を読んでいただきたいが、廃業寸前の会社を救ったのは、先代が入れ込んだものの、ほとんど売り上げを上げることがなかったある“糸”だった。
いや、強みは、技術やモノとは限らない。工具の卸問屋を娘婿として継いだ「大都」の山田岳人社長は、メーカーとのつながりこそが、自社の強みだと考え、EC(インターネット通販)に舵を切り、窮地を脱し、またそこから新しいことも学んでいった。その他、本書で紹介されている個々のエピソードは、笑いあり涙ありでとても魅力的だ。
そしてこの本は、著者による「まえがき」「あとがき」「なかがき」がいい。中小企業の再建を通じて、あるべき私たちの社会とは、金ではない豊かさ、人と人との結びつきと助け合い、私たちの幸せのリソースはどこにあるのか、などを語り、また問いかけているのである。