Forbes JAPAN2月号は、「『地球の希望』総予測」特集。戦争、気候変動、インフレなど、世界を揺るがすさまざまな事象が起きる「危機と混迷の時代」。2024年の世界と日本の経済はどうなるのか? 世界で活躍する96賢人に「今話したいキーワード」と未来の希望について聞いた。
2024年、注目が集まる米大統領選挙の行方と対中政策、そして日本のビジネスへの影響について、米国政治の専門家である久保文明防衛大学校校長と経営共創基盤共同経営者/地経学研究所経営主幹の塩野誠が対談した。
塩野誠(以下、塩野):2024年には大統領選があります。日本、世界への影響は非常に大きいですが、米国民は何を争点としているのでしょうか。
久保文明(以下、久保):基本的には、一般有権者は圧倒的に国内問題の優先度が高いです。最大の関心事は経済問題で、インフレは市民生活にかなりダメージを与えています。賃金上昇が追い付いていないのでバイデン大統領にとって、非常に厳しい戦いになると思います。実は、客観的にはアメリカの経済指標は決して悪くありませんが、景気回復を国民が実感するのには時間がかかるものです。
バイデン支持が高まらないなかでも、2022年の中間選挙などでは民主党ないし民主党的な考え方が勝っています。共和党が強い地域でも民主党が勝っており、そこはひとつバイデン陣営にとっての望みの綱になるかと思います。外交政策については、共和党で、ウクライナ支援に対してはトゥーマッチ(過剰)であるという反応が着実に増えており、外交政策が主要な争点になることはないとしても、結果次第で米国の外交が大きく変わることも考えられます。
塩野:11月にバイデン大統領と中国の習近平国家主席の会談が実現しました。米国としては軍事・経済リソースの配分が問題になっています。対中政策はどうなると思いますか。
久保:民主党も共和党も中国に対して厳しい態度を取り続けるという点では、基本路線は変わらないだろうと見ています。この時期に首脳会談を実施したのは、選挙戦が進むにつれて、やりにくくなるという事情もあったでしょう。かつては、経済成長に伴い中国も西側民主主義国のように世界秩序を支えてくれるようになるという期待がありました。しかし、そうではなかったというのが、冷戦終結後の世界史で最も大きな失望でした。
塩野:一方で、トランプは大統領時代にも独裁者に対して融和的な部分があったと思います。トランプが再選することで対中政策が変わるかもしれません。
久保:非常に重要な点ですね。トランプが中国に厳しいといっても、世界秩序、あるいは人権、民主主義のあり方にはそれほど関心がないと思われます。台湾についても強いコミットメントをしようという発言はあまりしていない。トランプが大統領に戻ると、経済的な利益と引き換えに多くの人が驚くような妥協をしてしまうのではないかという予想もあります。ロシアに対しても「ウクライナ戦争は自分が大統領になったらすぐにやめさせる」と言っていますが、それは結局、ウクライナの犠牲のもとで、現状を凍結するというものでしょう。