だが、それはウクライナ軍の補給線がロシア側に脅かされていなかった頃の話だ。ロシア側はその後、アウジーイウカの南北両翼でじわじわと前進し、1月末には両翼から市内に直接侵入するようになった。
ロシア軍部隊は現在、市内につながる主要道路から数百mの地点に入っている。これは手持ちの兵器でウクライナ側の補給トラックを攻撃できる距離だ。
アウジーイウカ戦役は攻防の転換点を迎えている。ただ、こうした事態はウクライナ側にとって初めての経験ではない。昨年5月まで、ドネツク州バフムートのウクライナ軍守備隊は、アウジーイウカと似たような消耗戦を続けて、廃墟化したこの都市で何カ月も持ちこたえた。ロシア側がおびただしい犠牲と引き換えに前進し、市の補給線が危機的な状況になるまでに、ウクライナ側は味方の10倍の戦死者を敵に出させた。
しかし、弾薬が不足してくるとバフムートの守備隊は優位性を失った。フロンテリジェンス・インサイトは「ロシア軍がウクライナ側の両翼を制圧し、補給ルートを遮断すると、(ロシア側とウクライナ側の)損耗率はほぼ同じになった」と当時を振り返って警告している。
ウクライナ軍の指揮官たちは、バフムートからの撤退を遅らせすぎた結果、ロシア側よりかなり少なく抑えていた損耗を増やし、それによってウクライナ国民からの信用を失った。
フロンテリジェンス・インサイトによれば、指揮官たちがバフムート戦役の最終盤に兵士らの命を無駄に失わせたことは、今も国内に影を落としている。「ウクライナ軍の一部将官の評判は地に落ち、無謀な正面攻撃をさせることで悪名高いロシア軍の将官と並べられるほどだ」という。
その結果、ウクライナが3年目、さらに4年目の戦争努力を続けるために、数十万人を動員する計画に支障が出かねなくなっている。「国民の間では自発的に軍隊に参加しようとする熱意が薄らいできている」とフロンテリジェンス・インサイトは警鐘を鳴らす。
アウジーイウカに対するロシア側の挟撃がさらに進む前に守備隊を撤退させれば、ウクライナ軍の指揮官たちは何百人の命を救えるだろうし、自分たちへの信用も保てるだろう。