昨年12月にも、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)友好協力50周年を記念する日ASEAN特別首脳会議が都内で開かれた。この会議に携わった政府関係者は「大過なく会議が終わって何よりだった」と息を吐いた。議題はもちろん重要だが、参加国が多くなると、プロトコール(国際儀礼)がどうしても心配になる。基本的な問題のひとつが席順だ。ASEANの場合、議長国が一番の上席に座り、次が次年度の議長国、あとは王族、大統領、首相というようにポストの重み順に席を決める。同じクラスのポストみなら、在任期間が長い方を優先する。
地味な作業だが、間違えると大変な事態を招きかねない。この関係者も過去に携わった国際会議の際、NGOが主催する関連行事で、NGO側の不手際から、席順を間違える事態が起きた。下座をあてがわれた国の代表は激怒し、会議を欠席すると言い出した。日本政府がNGOに代わって謝罪して、何とかその場を丸く収めたという。関係者は「その国を代表しているわけだから、怒るのも無理はなかった」と語る。
2010年11月、韓国は初めて主要20カ国・地域(G20)首脳会議を主催した。議長国の韓国は初の大役に緊張し、前の議長国だったカナダに助言を求めた。カナダ側のアドバイスの一つが、「席順を間違えるな」だった。韓国はG20首脳の記念写真撮影の際、首脳一人一人にエスコート役をつけ、正しい位置に並ぶよう、細心の注意を払ったという。
安全保障ジャーナリストの吉永ケンジ氏(@yk_seculligence)は「外交だけの問題ではありません。軍事の世界でも礼式(礼儀を行うための作法)は重要です。平和を維持する手段の一つと言っても過言ではありません」と語る。防衛庁長官(当時)が1964年に出した「自衛隊の礼式に関する訓令」は、敬礼のやり方から祝賀式や表彰式などでの礼式、礼砲の条件まで詳細に取り決めている。吉永氏は「自衛隊の中で礼式が徹底できないようでは、外国と交流もできません」と語る。自衛官が昇級する際の試験にも礼式は出てくる。