農民の怒りにEUも譲歩したが……
現在はオランダだけでなく、フランス、ドイツ、ベルギー、イタリアなど各地に抗議行動が広がっている。加えてロシアのウクライナへの軍事侵攻に伴う燃料や肥料価格の高騰なども農家の経営を一段と圧迫する。ドイツではショルツ首相が農業用のディーゼル燃料減税など農家支援策の打ち切りを表明。「我慢の限界」と感じた農民は、高速道路の入口を閉鎖するなどの抗議行動に打って出た。
ウクライナ産の農産物が安価で流入していることへの不満もくすぶり続ける。前出のメルコスールとのFTA交渉に対する憤りも、自国の農業を脅かすのではないかとの警戒感を映したものだ。ブラジルやアルゼンチンからの牛肉輸入拡大への不安を募らせているという。
ブラジルの砂糖やエタノールなど一部の農産品がEUの定める環境基準を満たしておらず、EU域内の農家にだけ農薬使用などで厳しい規制を求める「ダブルスタンダード」との批判も根強い。
EUは農民の激しい怒りに直面し、軌道修正を迫られた。その1つが、農地の少なくとも4パーセントを休耕地にして作付けを行わないようにするという規制の見直しだ。
この基準は2023年からスタートした共通農業政策(CAP)の一環だ。休耕地を農業機械の保管や家畜の放牧に使ってはならないことなどが定められている。これに異を唱える農家との間で激しい議論の対象となってきた。
規制は生態系の維持や過剰生産の抑制などが狙いとみられるが、EUは農民の不満に配慮し、1年間の免除を提案。ウクライナからの農産品輸入を制限する考えも明らかにした。
しかし、フランスの全国農業者組合連合(FNSEA)などは、これまで、休耕地規制を今年からただちに停止するよう求めていた経緯もあり、抗議行動が鎮静化するかは流動的だ。
欧州議会選にらみ右翼政党が農民票取り組みへ動く
フランスの経済ニュース「BFM BUSINESS」は、同国でスーパーマーケットを多店舗展開する小売り大手のカルフールが、2月24日からパリで開催される大規模な農業見本市への出展の取りやめを見本市の担当者に伝え「(カルフールが)危険に自らの身をさらすことはないだろう」と報じた。フランスはドイツと並ぶ「見本市」の国だ。コロナ感染拡大前の2019年には国内で750の見本市が開催され、国内外から1250万人の来場者や10万1000の出展企業・団体を受け入れた。
コロナ禍で大幅に落ち込んだが2023年には、来場者数も出展者数もともにほぼ感染拡大前の水準まで回復しつつある(「フランス見本市協会」調べ)。開催に伴う経済波及効果も大きいだけに、知名度の高い大企業の出展見送りは避けたいところだろう。
「関税のかからない製品と競争させるような自由貿易協定をストップしなければならない」
1月下旬に農民と面会したフランスの極右政党「国民連合」の前党首で、2027年の大統領選への再出馬が取りざたされるマリーヌ・ル・ペン氏はこう訴えた。6月の欧州議会選に向けて、右翼政党は農家の不満を票につなげようと動き出す。米国だけでなく、欧州でも「分断」の加速するリスクが高まっている。
連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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