ただし、こうした点をアップルが解決しようとしなかったとは思わない。言い換えるならば、世界で最も潤沢な資金をもとに開発された、最も贅沢なパーソナルコンピュータでも、現時点ではこの水準が限界ということだろう。
「次の時代」に開発者を誘うApple Vision Pro
冒頭でも述べたように、この製品は一般コンシューマに推薦するものではない。たとえこの価格を許容できるとしても、毎日使う道具として成熟するまでにはまだ時間が必要だ。しかしコンセプトが間違っていると感じることは、使用している中で一度も感じなかった。つまりハードウェア技術が進歩することで、Apple Vision Proが抱えている弱点はほとんど解決できてしまう。おそらく、ヘッドマウントディスプレイ部分が400グラム以下になれば、重さ、顔への圧迫感はかなり緩和できるだろう。さらにバッテリー内蔵の設計となり、価格が2000ドル(約30万円)を切るようになれば、多くの人に勧められる製品になると思う。
それまでにはあと数年はかかるだろうが、Apple Vision Proが進んでいる「方向」は明確かつ有望だ。プラットフォームは開発者たちが試行錯誤し、フィードバックを繰り返すことで進化する。ハードウェアが成熟する頃には、プラットフォームに集まる開発者たちのアイデアも収斂し、さまざまなグッドプラクティスが集まっているだろう。
年内に製品がアナウンスされているサムスン、クアルコム、グーグルの三社共同開発による空間コンピュータも登場することを考えれば、一気に開発コミュニティの興味が集まってくるに違いない。
空間コンピュータというコンセプトが成熟するとき、アップルがその中心であり続けることを目標に、彼らはこのジャンルへの投資を続けるはずだ。
現在の製品はハードウェアとして成熟していない。しかし次の時代へと開発者を誘う出発点として、Apple Vision Proがいる場所が「遠すぎる」とは思わない。