「生きがいを感じることは何ですか」と問われたら、みなさんはどう答えますか。「成功すること」と答える人がいれば、「社会に役立つことだ」と話す人もいるでしょう。
歴史を振り返ると、その時代の背景によって「生きがい」の定義も変遷してきました。例えば、江戸時代の武士にとっては「主君に仕えること」でしたし、昭和のサラリーマンの中には「安定した大企業に勤めて家族を築き上げること」だと考えていた人も多かったはずです。しかし、現代においては命を賭するほどの大義や神話はなく、我々はそれぞれの「生きがい」を自ら見出さなければなりません。きっとこれもまた時代による変遷なのでしょう。
本書は、精神科医でもある神谷美恵子が、生きがいを「持っている人」と「失った人」を対比させながらその本質に迫り、読む者の内面に切り込んできます。そして、生きがいを探す孤独な戦いに挑む全ての人に、生きがいは「人に理解されなくてもいいのです」と励まし、そっと背中を押してくれます。
私は、「先端技術の可能性を世に正しく届けたい」という使命をもち、Ridge-iを立ち上げました。創業から7年。東京証券取引所グロース市場に上場も果たし、ようやく事業を通じて社会のお役に立てていることを実感できるようになりました。そして気づいたのが、自分がやりたいと思っていることと社会からの期待が重なったこの「生きがい」が、未来に進む原動力になってくれるだけでなく、焦りや愚痴をも打ち消し、心を穏やかにしてくれているということでした。
もちろん、経営者として困難に直面することや理解されないことは多く、大きな生きがいを見失いそうになるときもあります。だから私は、毎日の中で小さな「生きがい」を見つける瞬間を大切にしています。4人の子供たちと過ごすふとした時間や無邪気な笑顔、社員が楽しそうに話す姿やお客様からの感謝の言葉──このように、日常の中には喜びを感じられる瞬間が本当にたくさんあります。その一瞬一瞬が、立ち止まりそうになる私を一歩一歩、前に進ませてくれるのです。
私はよく1人で山に登ります。夜、山の中でライトを消して自然の中に身を置き、さまざまなことに思いを巡らせます。静寂が、私の生きがいを鮮明に浮かび上がらせながら、「生きがいを感じる心」を磨いてくれているように感じます。
現代は、インターネットやメディアを介した情報があふれ、他の人と比較したり、批判を受けたりと自信を失いそうになることもたくさんあります。そんなときはぜひ、本書を手に取ってほしいと思います。
title/生きがいについて 神谷美恵子コレクション
author/神谷美恵子(著)
data/みすず書房 1760円/360ページ
profile/1914-1979年。医学博士。岡山県出身。津田英学塾卒業後、1938年に渡米。コロンビア大学医学部進学課程で学び、帰国後は、東京大学精神科医局、複数の大学教授を経て76年まで津田塾大学教授。医学の治験を背景にした著書多数。
やなぎはら・たかし◎1981年生まれ。早稲田大学卒業後、大手通信事業社入社。その後、国内外の大手金融機関にて、電子取引環境の構築に従事。2016年にAI領域でソリューションを提供するRidge-i創業。登山やトレイルランもする4児の父。