15万円以下なら万引きにしかならない
警察が動かないとなれば犯罪はますますエスカレートするが、アメリカのリベラルの先頭を走るサンフランシスコといえども、このところ世論が変わってきた。現役の検察官たちが立ち上がり、2022年にサンフランシスコ地方検察庁長官のリコール選挙が行われ、結果、長官のチェサ・ブーディン氏が罷免された。
しかし、このリコール選挙は大差で決まったわけではない。穏健派リベラルの市長が任命した新しい長官も、あいかわらず人手不足である現状は変えられないし、また刑務所も満杯で、廊下にベッドを出して寝かせている刑務所もあるくらいで、どしどし犯罪者を起訴して牢屋に入れるということへの躊躇もある。
さらに、カリフォルニア州の刑法PC 459.5では、万引きという犯罪は、950ドル以下の商品を盗む目的で、通常の営業時間中に営業中の店舗に侵入することと規定されている。
つまり、白昼に堂々と入ってその万引き額を日本円で約15万円内にさえ抑えていれば、それは万引きにしかならず、さらに万引きであれば(少なくともサンフランシスコでは)警官が来ないのを犯人も知っている。
万引きは軽犯罪であり、被告に前科が1つ以上ない限り、罰金は最高でも1000ドルで、懲役は最長6カ月となっているが、最近は罰金を払えば懲役にならないことがほとんどだ。
つまり、まだ前科がない者を万引きに送り込み、15万円以内の万引きをさせる限り、捕まってもほとんどダメージがない、経済合理性のあるビジネスとして成立しているのだ。
ふりかえって件のハンバーガー店だが、影響を受けるすべての従業員には、近くのIn-N-Outバーガーの店への転勤の機会が与えられるか、あるいは解雇手当を受けることができるという。ファーストフードのなかでも従業員の給料やボーナス、福利厚生が厚いことで知られるこの優良企業は、最後まで紳士を貫く態様だ。
In-N-Outバーガーは、オークランドの地元の慈善団体を支援してきた歴史を持っているが、この火もこれで消えることになる。ウォルグリーンのような小売の万引きから、人気ファーストフード店の車上荒らしへと裾野が広がったショックはカリフォルニア州民を怯えさせている。負の連鎖を断ち切らない限り、企業の撤退は今後も続くにちがいない。
なぜこんなことになってしまったのか? アメリカ経済を代表するカリフォルニア州の迷走に、他の州のアメリカ人は驚き、呆れ、そしてコンプレックスの裏返しで、密かにほくそ笑んでいる人さえいる。
連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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