しかし、ワンがこの契約を社内で押し通すにつれ、同社の首脳陣はパニックに陥ったと、この件を直接知る3人がフォーブスに語った。その2年前、ドナルド・トランプ前米国大統領は、中国企業のByteDanceが所有するこのアプリが米国の国家安全保障に脅威をもたらすとして、TikTokを禁止する計画を発表していた。米国人のデータが中国共産党によってアクセスされるのではないかという懸念に触発されて、このアプリはその当時も国家の脅威とみなされていた。
それでも「AI競争で中国を打ち負かすことは国家の安全保障上の問題だ」と公言し、自らを防衛テクノロジーのリーダーとして声高に主張する当時25歳のワンは動じなかった。この契約がもたらす商業的機会は、あまりにも大きく、それを断るのは惜しかったのだ。
しかし、2022年10月にフォーブスが、TikTokの親会社であるByteDanceが、アプリの位置情報を使って米国市民を監視する計画を立てていたというニュースを報じると、スケールAIはこの取引に尻込みした。同社はフォーブスの取材に対し、提携の開始から1カ月も経たないうちにTikTokとの協議を打ち切ったことを認めた。
米国家防諜安全保障センター(NCSC)の元所長のビル・エバニナはフォーブスの取材に「両社の提携は、世間に与えるイメージ的にも国会の安全保障の観点からも、良いものとはいえない」と述べている。「しかし、ByteDanceと提携すれば、ペンタゴンとの契約の10倍の収益を得ることができるかもしれない。だから、ビジネス的には良い決断だったという人がいるのは確かだが、大局的にはそうではない」と彼は付け加えた。
11人の元従業員や業界関係者へのインタビューによると、スケールAIとTikTokとの提携に関しては、複数の幹部が、これまで同社が築き上げた政府との関係を損なうことにつながりかねないと、懸念を示していたという。