それは、実は、冒頭のような「ささやかな修業」の積み重ねからしか、身につかない。
本来、「修業」という言葉の真の意味は、「滝に打たれる修業」や「火渡りの修業」のような大袈裟な意味ではない。
こうした集中力は、日常の仕事の一瞬一瞬を大切にする「ささやかな修業」の積み重ねの結果として、自然に身につくものである。
しかし、多くの人は、その「ささやかな修業」を勧められても、「そんな修業が何になるのか」と軽んじ、決して実践しようとはしない。
だが、その「ささやかな修業」を愚直に続けた人間だけが、究極、身につける、「静かな存在感」というものがある。
筆者の人生の僥倖は、若き日に、そうした一流のプロフェッショナル、一流の経営者と巡り会い、その姿から、多くを学ばせて頂いたことであろう。
そして、その「ささやかな修業」が、ときに「想像を超えた結果」に繋がることも、学ばせて頂いた。
それが、筆者が、72歳を越えてなお、「いまだ修業中の身」と語る理由でもある。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。全国8000名の経営者やリーダーが集う田坂塾塾長。著書は『人間を磨く』『教養を磨く』など100冊余。