この野戦軍が何を目指しているのかは明らかだ。クピャンスクを含め、ハルキウ州でロシア軍が2022年に一時支配し、その後ウクライナ軍の強力な反転攻勢で解放された広範な土地を奪い返すことだ。
クピャンスクを北から南へ貫流する大河、オスキル川の東岸までの全域を制圧することがロシア軍の目標になる。ウクライナのシンクタンク、防衛戦略センター(CDS)は「ロシアは2024年3月までに、ドネツク州とルハンスク州の全域およびオスキル川までのハルキウ州を占領する計画だ」と説明している。
なぜ3月が期限なのか。それは同月に、ロシア大統領「選挙」なるものの「投票」とやらが行われる予定だからだ。この「選挙」は事実上、ウラジーミル・プーチンが唯一の候補者であり、プーチンはその結果、ロシアとウクライナ侵略戦争の残忍で独裁的な支配を維持することになる。
それに合わせ、ロシア軍がハルキウ州の一部を切り取ることができれば、プーチン「当選」への贈り物になるというわけだ。
ウクライナ側はクピャンスクと周辺の集落を、北面の第3独立戦車旅団、南面の第4独立戦車旅団など10個前後の旅団の一部またはすべてで防衛している。おそらく兵士2万人規模、戦車などの戦闘車両や榴弾砲数百を擁するかなり大きな軍勢だ。
もっとも、ウクライナ側にとって問題は人員や車両ではない。問題は弾薬だ。ウクライナ軍が保有する最高の大砲向けの155mm砲弾の主要な供与国は米国だったが、米議会のロシア寄りの共和党議員は昨年秋、ウクライナへの援助を断ち切った。
それ以降、ウクライナ軍が1日に発射する砲弾数は以前の3分の1のわずか2000発まで減っている。対するロシア軍は、北朝鮮から安定した弾薬供給を受けているおかげで1日に1万発を発射している。
ロシア側は火力面で新たな優位性を確保したことで、ウクライナ側の対砲兵射撃をあまり恐れず大砲を集積し、市街地への集中砲撃を実施できるようになった。
ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは「こうした状況はロシア側に、市街地を組織的に破壊し、防御不可能にするという、よく知られたアプローチ実行できるようにしている」と指摘している。