欧州

2024.02.05 10:00

ロシアの「エースドローン操縦士」殺害を機にウクライナは南部で攻勢に転じる

安井克至
モイセイとその仲間は、ウクライナ軍のボートを31隻攻撃し、400人近いウクライナ兵を死傷させたという。この「ボート大虐殺」はクリンキにいる一部の海兵を絶望に追いやり、米紙ニューヨーク・タイムズなどのメディアは悲観的に報じた。同紙は昨年12月、クリンキの戦いを「自殺任務」とするウクライナ海兵の言葉を記事の中で引用した。

モイセイを見つけ出して殺害することが、ドニプロ川右岸にいるウクライナ軍のドローン操縦士たちの最優先任務となった。そして、どうやら1月上旬にその任務を全うした。

ウクライナ軍のドローンは、モイセイのチームがクリンキの隠れ家からドローンを飛ばしているのを突き止めた。そしてFPVをその隠れ家に突っ込ませて爆破した。「モイセイへのささやかな贈り物」と「バル」というコールサインのウクライナ軍のドローン操縦士は皮肉った。

モイセイを排除しても、クリンキとその周辺におけるロシア軍のドローン攻撃の脅威はなくなっていない。だが、モイセイを始末したことで脅威は減った。これまでよりも多くのウクライナ軍のボートが急にドニプロ川を渡るようになった。

補強と補給を受けたクリンキにいる第35旅団の部隊は攻撃に転じた。300mほど西に前進し、皮肉にもモイセイが死亡した建物に到達したと伝えられている。

クリンキでの戦いは「自殺任務」ではない。ヘルソンに展開するロシア軍にとってはほぼ消耗戦となってしまった。

クリンキでウクライナ軍を駆逐しようとしては失敗を繰り返し、ロシア軍は少なくとも157両の戦車や戦闘車両、りゅう弾砲、そしておそらく数千人の兵士を失った。一方で、ロシア軍が破壊できたウクライナ軍の兵器(主に大砲)はわずか24で、おそらく数百人の海兵とボートの乗員が死傷した。

だが、ここでの戦いが完全に陣地戦で、双方とも地歩を固めていないというわけではない。クリンキで最も危険な存在だったロシア軍のエースドローン操縦士を殺害してから、ウクライナ軍は勢いを得て前進している。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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