ボランジェといえば、映画「007」シリーズでジェームズ・ボンドが愛するブランド、または英国王室の御用達というイメージが強いかもしれないが、それ以外にも語りつくせないほどの魅力がある。今回は、ピノ・ノワール、樽醸造、そしてサステイナビリティをキーワードに、今のボランジェを切り取ってみたい。
ピノ・ノワールへの想い
シャンパーニュ・ボランジェは、1829年にアイ村で創業し、今も家族経営を続けているメゾンだ。アイは、シャンパーニュ地方の数ある村の中でも「特級格付け」の17村の一つで、昔から最良のピノ・ノワールが育つ場所として名高い。シャンパーニュ中に広大な自社畑を所有するボランジェだが、アイ村にも多く畑を持っており、ここで育つピノ・ノワールからアイコニックなワインが造られている。ボランジェのワインは、ふくよかで重厚、力強いがきめ細い。そのスタイルの鍵となっているのがピノ・ノワール。NVの「スペシャル・キュヴェ」をはじめ、どのシャンパーニュにも60%以上のピノ・ノワールが使われている。
マネージング・ディレクターのド・ベレネ氏は、「ボランジェのパッションであるピノ・ノワールは、繊細で育てるのが簡単ではないのですが、最も素晴らしいワインを生み出します」と語る。
アイコニックなシャンパーニュ
ピノ・ノワールを誇りとするボランジェが、このブドウ品種100%で造る3つのシャンパーニュに注目してみたい。まず、「ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ(Vieilles Vignes Françaises、以下「VVF」)。アイ村のメゾンに隣接する、2区画を合わせても0.31ヘクタールほどの小さな畑から造られるワインだ。この区画が特別なのは、フィロキセラの被害を免れた希少な古木が植わっているからだ。現在のブドウ樹の大部分は、19世紀に世界中のブドウ畑を壊滅させた害虫フィロキセラの耐性のある台木に接ぎ木されているのだが、VVFのブドウ樹は、今も接ぎ木されず、自らの根を地中に張っていて、昔ながらのやり方で手入れされている。
ド・ベレネ氏は、「VVFには2つの目的があります。まず、最良のピノ・ノワールの表現を伝えること。そして、伝統的な知見を守ることです」と話す。
この特別なブドウ樹から生み出されるワインは、凝縮した果実で、圧倒的なエネルギーを放ち、力強さとともにエレガンスも兼ね備えている。ごく僅かな生産量だが、味わう幸運を得たならば、忘れられない体験になるだろう。