ここはボランジェが独占的に所有している畑で、もともと南部分は、ブドウがよく熟すので、泡のシャンパーニュではなく、赤のスティルワインが造られている。シャンパーニュで造られる赤ワインの最高レベルとして名が通っているワインだ。
実は、北側の一部分からは、泡のシャンパーニュも少量造られている。2022年にメゾンを訪れたときに、醸造責任者のドゥニ・ブネア氏がまだラベルのないシャンパーニュを、「何だと思う?」と出してくれた。香りをとってみると、力強く複雑で、スケールの大きいワインだと感じた第一印象は今でもよく覚えているが、これが、ラ・コート・オー・ザンファンのシャンパーニュ・バージョンだったのだ。
そして、2023年に新たにリリースした「PN AYC 18」という名のシャンパーニュ。PNはピノ・ノワール、AYはアイ村、2018はこの年のワインをベースに造っているという意味を持つ。「VVFの弟分」と言われるとおり、ボランジェのピノ・ノワールのスタイルを存分に味わえる作品だ。
樽へのこだわり
ボランジェのワイン造りの特徴の一つが樽。昔は樽でのワイン造りしかなかったのだが、ステンレスタンクが普及されてから、樽使用を止めたシャンパーニュ・メゾンもあるが、ボランジェは今も樽醸造にこだわる。ブネア氏は、「樽を使うことにより、ワインに微量の酸素が供給され、緩やかな酸化が起こります。結果的に長期に耐えうるワインになります。また樽はサイズが小さいので、ミクロレベルでワインの醸造が可能になります。またワインに複雑さやまろやかな口当たり、スパイスといった要素ももたらします」と解説する。
ボランジェでは、新樽は使わず、ブルゴーニュの関連ワイナリーから4年経た樽を受け継ぎ、約40年間使用する。さまざまな大きさの4000もの樽があり、その維持管理のために、専門の樽職人と樽工房を擁している唯一のシャンパーニュ・メゾンなのだと言う。
将来に向けて
ボランジェは、サステイナブルな取組みにも注力している。2023年には取得が難しいとされる「Bコーポレーション(B-corp)」の認証も得るなど、着実に前進している。ド・ベレネ氏は、「ブドウの樹を守り、土地を守り、次世代により良好な状態で手渡す。こうしたサステイナブルな取組みは、私たちにとって、特に強調するまでもない、自然なこと」だと言う。ワイン造りの要であるブドウ畑については、2012年から除草剤の使用を止め、現在は自社畑のオーガニック認証にも取り組んでいる。
メゾンに伝わる伝統的なスタイルを維持しながら、時代の流れを汲んだ、新しい作品を世に出し、メゾン自身も変化を遂げているボランジェ。ピノ・ノワールを主体としたメゾンのワインからは、その想いが感じられるはずだ。
島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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