世界経済フォーラムの第54回年次総会(通称「ダボス会議」)の現地取材を通じて向き合いたかった問いの一つがこれだ。世界経済フォーラムは官民の協力を通じて世界情勢の改善に取り組むことをミッションに掲げる。パートナーシップのなかには当然、起業家やイノベーターの存在も含まれる。
世界経済フォーラムは「イノベーター・コミュニティーズ」をはじめスタートアップやアントレプレナーのコミュニティを複数主催している。ここ数年はイノベーター・コミュニティーズにユニコーンの枠を新設するなど、社会にインパクトをもたらす起業家たちのプラットフォームを拡大している向きもある。今年の年次総会でも新たな進展があった。
年次総会3日目となる1月17日。「ダボス会議」の会場内の一室で記者会見が開かれた。会見の主体は世界経済フォーラムが主導するオープン・イノベーション・プラットフォーム「Uplink」(アップリンク)だ。その内容は、アーリーステージのインパクト起業家がイノベーションを通じてSDGsを加速できるよう、マニュライフ生命やサウジアラビア王国などから3700万スイスフラン(約63億円)を調達したというものだった。
アップリンクは、世界経済フォーラムがデロイトおよびセールスフォースと共同で20年に発足したテクノロジー主導型のプラットフォームだ。24年1月時点の登録ユーザー数は起業家や投資家、専門家、パートナーなどを合わせて6万9000人以上。登録者はプラットフォームを通じて「イノベーション・チャレンジ」と呼ばれるアイデアコンペに参加できる。コンペのお題は「水廃棄ゼロへの挑戦」「持続可能な航空への挑戦」「森林と健康への挑戦」など多岐にわたるが、いずれも世界が直面する喫緊の課題でありシステム変革が求められる分野だ。
各コンペにはアイデアを支援する投資家やパートナーがつき、チャレンジごとに最も優れたイノベーター(トップ・イノベーター)を選出する。世界経済フォーラムでアップリンクの責任者を務めるジョン・ダットンによると、評価基準は主に3点。革新性の高さ、ビジネス・パフォーマンス、そして社会貢献のインパクトの大きさだ。
トップ・イノベーターは世界経済フォーラムの「アップリンク・イノベーション・エコシステム」に招待され、ビジネスそのものや起業家自身の価値向上、ブランディングなどを幅広くサポートする1年間のプログラムに参加できる。加えて、起業家たちは世界経済フォーラムが持つコミュニティやイニシアチブに参加し、同じゴールを目指すステークホルダーたちと交流する機会を得ることができる。