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2024.02.01 11:15

【ダボス現地リポート(5)】インパクト起業家コミュニティ・アップリンクが目指す「起業家革命」

世界中からアーリーステージの優秀な起業家を発掘し、独自のイノベーション・エコシステムを通じてSDGsの進展を加速させる。これがアップリンクの活動のゴールだ。

しかしなぜ、アーリーステージの起業家を対象にしているのか。ダットンはその理由を「アーリーステージのスタートアップへのインパクト投資は5%未満であり、自然や生物多様性に焦点を当てたベンチャー企業への投資はさらに少ない。また、シード企業とユニコーンとの間には大きな隔たりがある。アップリンクはその架け橋になるために設立された」と説明する。

この「隔たり」を埋めるにはまず、起業家と投資家の目線をそろえる必要がある。鍵となるのが信頼の構築だ。ダットンは言う。

「互いの期待値についてオープンに対話するのと同時に、投資家には財務的なリターンだけではなくネット・ゼロなど持続可能な世界へのリターンも重要だという点を共有する必要がある。極論を言えば、地球が存在しなければいくら儲けても意味がないのだから」

世界経済フォーラムでアップリンクの責任者を務めるジョン・ダットン

世界経済フォーラムでアップリンクの責任者を務めるジョン・ダットン

アップリンクの活動は24年1月で満4年を迎えた。エコシステムに参画しているトップ・イノベーターの数は449社にのぼり、44のトップ・インベスターや283のパートナーとともにインパクトの創出に邁進している。最新のインパクト・リポートによると、トップ・イノベーターたちは5600万ヘクタール以上の自然生息地を保護し、1700万リットル以上の水を保全し、2万3910トンの海洋廃棄物を収集し、2920トンの資源のリサイクルを促進したという。

「必要なのは投資家コミュニティだけでも、民間セクターや政策立案者だけでもない。彼らが足並みをそろえれば世界の課題により早く対処できる。世界の平均気温の上昇は(化石燃料の大規模な使用が始まる以前と比較して)1.5度にかなり近づいている。時間を無駄にしている場合ではない」

SDGsの期限である30年まで残すところあと6年。持続可能な未来をもたらすイノベーションを世界中から発掘し、マルチステークホルダーとのつながりをフル活用しながらインパクトの創出を後押しする。これは世界経済フォーラムが持つ知見や人脈、ブランド力があるから成り立つ仕組みであり、誰もが一朝一夕につくれるものではないだろう。しかし世界共通の課題に挑む革新的なリーダーやソリューションが求められる今、世界規模のイノベーション・エコシステム構築に取り組むアップリンクに学ぶことは多い。

次回はトップ・イノベーターの取材を通じて、起業家から見たアップリンクの本質を探る。

瀬戸久美子=文 写真=世界経済フォーラム

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