フランスの「AIの父」ヤン・ルカンの影響
オープンソースを重視するルブランの主張は、彼の元上司でメンターでもあるメタのチーフAIサイエンティストのヤン・ルカンの主張と重なる。AI研究の先駆者として「AIの父」とも呼ばれるルカンは、最も著名なオープンソースAIの推進者の1人としても知られている。ルカンは、GPT-4のようなクローズドモデルと、メタのLlaMa 2のようなオープンモデルの2つを取り巻く議論を、1990年代に勃発したインターネットの未来をめぐる論争になぞらえている。マイクロソフトとサン・マイクロシステムズは、黎明期のインターネットにクローズドのOSを押し付けようとしたが、最終的にはオープンソース・プラットフォームが勝利した。彼は、AIの分野でも同じことが起こると考えている。
「近い将来、私たちとデジタル世界とのインタラクションはすべて、ある種のAIシステムを介して行われるようになるでしょう。そのようなシステムを、米国西海岸の数社だけが独占的に構築することはできないのです」と、ルカンはフォーブスに語った。
ルカンとルブランはともにフランス出身で、FAIRと呼ばれるパリのフェイスブックのAI研究所でいっしょに働いていた。ルブランは、自身が立ち上げたスタートアップのWit.ai をフェイスブックに売却した後の2015年に、FAIRにチーフエンジニアとして参加した。それ以前に、彼は、AIカスタマーサービスチャットボットのVirtuOzを2012年にニュアンス・コミュニケーションズに売却していた。ニュアンス社は現在、ナブラにとって最大の競合の1社だが、ルブランは同社でヘルスケア関連のプロジェクトを手がけていなかったという。
ルブランはFAIRで、AIと人間のコンシェルジュを融合させる今はなきプロジェクトのFacebook Mに携わっていた。彼はある日、パリの医師たちにその仕事の一部を見せたときのことを思い出す。「このような自動化を医療分野で実現すれば、医師にとっても患者にとっても画期的なものになる」と、彼らが言ったのをルブランは今でも思い出すという。
2018年に彼はFAIRを退社し、Wit.aiの共同創業者でFAIRの同僚だったマーティン・レイソンCTOに迎えてナブラを設立した。同社のソフトウェアは無料トライアルが可能で、月に30件まで患者の診察ができる。それ以降は、月額119ドルの費用が発生する。
ルブランによると、ナブラは間もなく、診療所が特定の医療サービスの費用を保険会社に請求する際に必要なコードを自動的に生成するサービスを開始する予定だという。このソフトウェアは現在、英語、フランス語、スペイン語に対応しており、北京語、ポルトガル語、ロシア語は今年中に対応予定という。
ナブラが優位性を発揮できるもう1つの分野は、データのプライバシーだ。なぜなら、同社は競合他社とは異なり、患者のデータを保存したり、データを使ってモデルを再学習させたりはしていない。「診察が終わると、私たちはその患者のことをすべて忘れてしまうのです」とルブランは語った。
(forbes.com 原文)