辞任の最初のきっかけは、下院での公聴会(12月5日)に、ゲイ学長が、ペンシルベニア大学のリズ・マギル学長、マサチューセッツ工科大学(MIT)のサリー・コーンブルース学長とともに出席したときの質問者エリス・ステファニク議員(共和党)との問答だ。
この公聴会に出席した3人の女性学長は、ひとりずつ「キャンパス内でユダヤ人の集団殺戮(ジェノサイド)を呼びかけるのは、貴校の(ハラスメントやいじめに関する)行動規範に違反するか? Yes or No?」と問われ、はっきりと「Yes」と答えられず、「文脈による(depending on context)」という答えに終始した。これは、Yesと答えると、キャンパスにおける表現の自由(Freedom of Speech)に違反することになるかもしれない、という心配が脳裏をよぎったのかもしれないし、法律事務所が用意した想定問答にそう書いてあったのかもしれない。
ペンシルベニア大学のマギル学長は、「行動に移った場合はハラスメントになる」と答え、ステファニク議員から、実際に殺害が起きないとハラスメントにならないのか、と詰問され、答えに窮するという場面もあった。マギル学長は、この4日後に理事会によって解任された。一方、ゲイ学長は、翌日、公聴会での答えは不十分だったとハーバード大学の学内新聞のインタビューで謝罪、12日にはハーバード大学の理事会が学長継続を支持し、一件落着したかに見えた。
この公聴会の前から、ハーバード大学初の黒人女性学長であるゲイ学長には、盗作(Plagiarism)疑惑と、業績となる出版物が少ないという批判があったのだが、公聴会問答への批判が高まるにつれて、この盗作疑惑と学者としての業績批判がクローズアップされるようになった。Ph.D.論文では引用部分に「括弧」をつけていなかったというような一見マイナーな問題が指摘され、ゲイ学長はPh.D.論文の事後修正を申し出ていた。さらに、ゲイ学長の業績とされる成果も、実はほかの黒人女性学者の業績を広範に利用する一方、十分な功績評価をしていない、とその黒人女性学者から告発されるなど波紋が広がった。