そうした旅は、「予期悲嘆」の旅でもある。つまり、老いて体がだんだんと弱っていく親を目の当たりにし、その死を予期した際に渦巻く、複雑な感情や思いのことだ。こうした予期悲嘆は、親が亡くなった後の悲しみほど注目されていないが、心に与える打撃は等しく大きい。
予期悲嘆は、実際に死別する前に起こる。近いうちに親が体力をなくし、自立した生活を送れなくなるであろう状況に直面したときだ。悲しみや不安、罪悪感、怒りなどの感情を抱くが、その根底にあるのは、自分を育ててくれた健康な親がいなくなるという予期、先行きの不透明さ、介護の責任に対する戸惑い、年老いていく親を抱える苦労への不満などがある。
年老いていく親を支えつつ、こうした複雑な感情に対処していくのは、難しいことになり得る。以下では、人生のこうした段階にある人が重視すべき3つの対処法を紹介しよう。
1. 人生の自然な流れを受け入れ、そうした状態を「普通の状態」にする
「かつての日々」が失われることを嘆き悲しむのは当然のことだが、それを人生の一部として受け入れ、「普通の状態」を取り戻すことは不可欠だ。ある研究によると、予期悲嘆に対処しようとしている人は、「普通の生活」を維持し、そうしたなかで気晴らしをすることで慰めを得られることが明らかになっている。
つらい感情から気をそらし、「現在」に集中するためにできることはいろいろある。
・親がガーデニング好きなら、天気のいい午後に一緒に庭に出て、花を植えてみよう。
・日曜にブランチをともに楽しむといったシンプルな習慣は貴重だ。家族の絆が強まると同時に、思い出にもなる。
・絵画や彫刻、手芸など、心が落ち着くアートに没頭することも、言葉にするのが難しい複雑な感情を発露するひとつの手段だ。瞑想のような効果があって、癒しになる。
そうしたひと時を過ごせば、自分がいまそこに存在していることが実感でき、一瞬一瞬を最大限に活かすことができるだろう。
2. レガシーづくりをする
緩和医療に関する学術誌『American Journal of Hospice and Palliative Medicine』で2021年に発表された研究によると、思い出となるものをつくる行為は極めて有益だ。のちのちまで大切にできる形見も残すことができる。つまり、思い出となるものをつくること自体が目的になると同時に、思い出の品を残す機会にもなるのだ。高齢の親と一緒に、思い出として残せるものをつくれるアイデアを紹介しよう。
・親と一緒に家族のアルバムをつくったり、新しい写真を加えたりしよう。古いアルバムを見るのはとても楽しいことだし、思い出話に花が咲いたり、笑ったりできる。写真を整理していると、忘れていた記憶がよみがえり、家族の絆が深まるだろう。
・孫やひ孫に宛てて、心温まる手紙を書くことを、親にすすめてみよう。そうした手紙には、個人的なエピソードや有意義なアドバイス、愛情に満ちた表現を盛り込むといい。いずれ、孫やひ孫が大切にできる形見となり、家族が綿々とつながっていることを実感させてくれるものとなる。