北米

2024.01.29 11:30

反ユダヤ主義と言論の自由、そして寄付者の圧力に揺れる米国の大学

イスラエルとハマスの紛争をめぐる分断がハーバード大学(写真)など米国の大学を揺さぶっている( Marcio Jose Bastos Silva / Shutterstock.com)

米国の高校生が出願先の大学を決めるときには普通、その大学の成績要件、学べる内容、教員、授業料、ランキングなどを検討する。だが高等教育の専門家らによると、一部の生徒は現在、新たな要素を考慮するようになっている。反ユダヤ主義と言論の自由をめぐる懸念だ。

ハーバード大学のユダヤ人学生6人は今月、学内での「深刻な反ユダヤ主義の横行」に大学側が対処しなかったとして、連邦裁判所に訴訟を起こした。ハーバード大学は、個人の権利・表現財団(FIRE)による2024年版「大学の言論の自由ランキング」で、対象となった米国内の大学248校のなかで最下位に沈み、言論の自由をめぐる状況は「極度に悪い」とも判定されている。

こうしたなか、大学進学を希望する各生徒グループの間で「どんどんブレーキが踏まれている」と説明するのは、教育コンサルティングを手がけるラカニ・コーチングの創業者ハフィーズ・ラカニだ。「グループごとに(大学選びで)何を優先するかは違っていて、生徒らはどこに出願するか見直しています」(ラカニ)

実際、ハーバード大学では、2024年度の早期出願者(合否結果が3月でなく12月に出る)が前年度に比べて約17%減った。早期出願の締め切り日は昨年11月1日で、10月7日に発生したイスラム組織ハマスによるイスラエル襲撃と、それをきっかけに米国の大学で相次いだ騒動から間もない時期だった。そうした騒ぎはハーバードなど米国のトップクラスの大学でも起きた。

「(この騒動が)直前にあり、出願サイクル全体に影響を及ぼしました。ハーバードの早期出願者数が減ったのも、おそらく(騒ぎが)関わっているでしょう」(ラカニ)

ハーバード大学とペンシルベニア大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学長は昨年12月、大学内の反ユダヤ主義について調査する米議会の公聴会で証言し、その答弁が厳しい批判にさらされた。その後、ペンシルベニア大学のエリザベス・マギル学長とハーバード大学のクローディン・ゲイ学長が辞任したのはいくつかの理由が重なったためだったが、一連の過程で、卒業生の裕福な寄付者らが大学側の意思決定に与える影響力も明らかになった。彼らは反ユダヤ主義に対する大学側の姿勢は軟弱だとして公然と不満を示し、なかには寄付を見合わせた人もいた。

「寄付者がアクティビストとして態度を強めたのが新しい動きです」とテネシー大学ノックスビル校のロバート・ケルチェン教育リーダーシップ・政策研究学部長は指摘する。「企業界から広がってきた動きです。企業でも取締役がより積極的に物をいうようになっています。全般的に、圧力をかける行動には効果があると理解されています」

多額の寄付が多くの学生を学費面で支援したり、大学の財政問題の解決に役立ったりしているのは確かだ。しかし、多くの場合、それには条件も付けられていて、それを通じて、寄付金の用途だけでなく大学の優先事項や公的な立場も寄付者側の影響を受けている。

「お金はただ与えられるものではないのです」とケルチェンはいう。「そして、それに絡む問題は非常に個人的で、深刻な分裂をもたらすものになっています。卒業生や寄付者は大学側に自分の価値観を反映させたい。一方で大学側も、地位を維持することや、対外広報のやり方次第では巨額の資金を失いかねないことを大変気にかけています」
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翻訳・編集=江戸伸禎

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