広く利用できる新しい商取引の方法を発明した人なら誰でも、シュルマンが手にしたような急成長の業績を期待する権利があるだろう。しかし、この記事はペイパルの独創的で新しい支払い方法モデルについてだけのものではない。シュルマンのリーダーシップは、成長と利益がどこから発生するかを鋭く認識していることを示している。それらの原点は、仕事をする全従業員一人ひとりの創造性と献身にある。リーダーとしてシュルマンが注力するのは、自身の成功の源である従業員たちが、彼の与える給料で豊かな生活を築けるようにすることだ。同時に、同じ精神でシュルマンは、ペイパルを平等で包括的という原則に沿う会社にした。これは清く正しく、高潔な取り組みに聞こえるかもしれない。だが、この原則に従うことはまったく快いものではなかった。シュルマンは、さまざまな方面からの相次ぐ反感や怒りに耐え、ぶれずにその方針を貫いてきた。
米ニューヨーク大学スターンビジネススクールの卒業式でのシュルマンのスピーチがきっかけとなって行われた、外交問題評議会のリチャード・ハース名誉会長とのインタビューで、当時ペイパルのCEOだったシュルマンは自身の業績を簡潔に説明した。ペイパルはわずか25年前に創業して以来、3倍に規模を拡大してきた。便利でさっと使えるサービスを提供することで、急速かつ右肩上がりに成長。消費者はキーボードやトラックパッドを数回クリックするだけで、購入代金の支払いを済ませられるようになった。ビジネスに関わる活動において、ペイパルは地域社会やサプライヤー、株主、環境、国家、そしてとりわけ従業員に誠実に奉仕しようとしてきた。従業員は極めて重要だ。従業員の幸福を第一に考えるという基本姿勢が、ペイパルの成長を支えてきた。
「私が行うことはすべて、従業員第一だ」とシュルマンはハースに語った。「従業員を第一に考えれば、すべてがそこから続くというのが私の考えだ。従業員が敬意を払われていると感じ、経済的に安定した生活を送り、貯蓄したり子どもたちのためにアメリカンドリームを考えたりする経済的余裕があれば、会社は優秀な従業員を集め、それによって顧客により良いサービスを提供することができる」
シュルマンは会社のトップに立つ者の模範となった。彼が行っていることは、単なる親切心や思いやりの行為ではなく、持続可能な成長のために必要なことだ。そしてシュルマンが率いたペイパルの業績は、企業が従業員や地域社会などへの利益還元を重視するステークホルダー資本主義が実際に機能することを証明している。