確かに、中国は米国のような株価暴落を経験していない。それは異なる点だ。昔の米国と共通しているのは、経済の仕組みや未来に対する信頼感の喪失だ。米国は株価暴落によって信頼感を失った。中国の問題は習近平国家主席の政策にある。決して前途有望ではない。
この好ましくない状況を示す重要な兆候の1つが、銀行融資の減少だ。銀行融資は企業や消費者の支出や投資の計画を示すものだが、中国人民銀行によると、昨年12月の銀行融資に対する需要は前年同月比16%減で、コンセンサス予想を約20%下回った。この状況は注目すべきものだ。というのも、中国政府は景気刺激策としてインフラ整備にかなりの金を注ぎ、中国人民銀行はこの1年間に金利を引き下げ、市場や金融機関にやたら流動性を供給し、広義のマネーサプライを約9.7%増やしたからだ。
中国の人々や企業がこうしたインフラ支出や金融緩和を利用していない理由として最も考えられるのは、利益を得る見込みがほとんどないととらえていることだ。少なくとも、借金をするリスクに見合うほどに事態が好転するとは思っていない。
中国国家統計局によると、消費者信頼感指数は昨年3月の最高値から約10%低下。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)時や、続いてゼロコロナ政策の下で不必要なロックダウン(都市封鎖)や隔離が行われた時よりも低い水準にある。企業の景況感は昨年後半からわずかに持ち直したが、データ収集が始まった今世紀初めまでさかのぼっても、過去の基準からすると依然として低迷している。
この信頼感の欠如、つまり借り入れや支出に対する警戒心は、米国が大恐慌時に直面した問題とよく似ている。偉大な英経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、当時の問題の本質を説明した。米政府の景気刺激策や米連邦準備制度理事会(FRB)の十分な資金供給が経済を動かすことができるのは、消費者や企業が将来に十分な信頼を寄せている場合に限られると指摘した。信頼感がなければ、景気刺激はすぐに自然消滅し、経済は一時的に回復しても、また低成長か衰退に逆戻りするだろう。同じことが金融刺激策にも当てはまる。中国人民銀行がいくら流動性を供給しても、信頼感がなければ企業や消費者は利用しない。ケインズはこれを「流動性の罠」と呼んだ。