ウクライナによる反転攻勢が具体的な成果を得られず、ロシアとの間で停戦が徐々に現実味を増しているという認識のもと、NATO関係者に「次は我々が狙われる番だ」という懸念や、「最悪の事態に備えなければならない」という安全保障の鉄則を守る考えが、こうした動きの背景にあるのかもしれない。陸上自衛隊東北方面総監を務め、軍事力に心理戦や情報戦などを絡めるハイブリッド戦争に詳しい松村五郎元陸将は、こうした背景に加えて、「ロシアによる情報戦がNATO側の発言を生み出している」と指摘する。
松村氏の指摘通り、ロシアは2022年2月のウクライナ侵攻後から、NATOの介入を避けるため、「NATOが参戦すれば、核を使う」といった脅しを繰り返してきた。最近でも、23年12月に米国との防衛協力協定に相次いで署名したフィンランド、デンマーク、スウェーデンに対し、ロシア側が反発のコメントを発表。フィンランドとの国境線近くの軍備を増強する動きもみせている。松村氏は「ロシアはNATO・西側諸国による支援の先細りが続けば、ウクライナに勝利できると考えています。支援を思いとどまらせるために、NATO諸国を激しく牽制しているのでしょう」と語る。
そして、松村氏は「このような状況が続くと、冷戦時代に、お互いに軍事力を強化するエスカレーション現象が続いたように、NATO側もロシアによる攻撃を警戒せざるを得ず、互いに軍備を増強するスパイラルに入っていく危険性があります」と懸念する。
欧州連合(EU)は昨年12月、ウクライナに対して、24年から27年にかけて500億ユーロ(約8兆400億円)を支援する計画を先送りした。加盟国のハンガリーが反対したためだ。米国も共和党の反対により、ウクライナへの追加支援の見通しが立たない状況に追い込まれている。このため、ウクライナ軍は兵器や弾薬の不足に悩まされている。